柑橘類はガン予防物質の宝庫

【概略】

野菜や果物を多く食べることはガン予防の基本となっていますが、果物の中では特に柑橘(かんきつ)類のガン予防効果が注目されています。柑橘類とはみかんの仲間で、精油のリモネン、フラボノイドのヘスペリジン、カロテノイドのβ-クリプトキサンチン、水溶性食物繊維のペクチン類など作用メカニズムの異なる様々なガン予防物質が見つかっています。

柑橘類は多種多様なガン予防成分を含む食品素材の代表であり、日頃の食事に柑橘類を果皮を含めて積極的に取り入れることはガンの再発予防に効果が期待できます。

【柑橘類は多様なガン予防成分を含む】

柑橘類はどれもミカン科の常緑樹の果実で、世界中に数百種類もあります。柑橘類を総称して、一般に「みかん」と言っています。温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、八朔など様々な柑橘類が販売されています。

食品とガン予防の関連を検討した疫学研究の多くが、柑橘類の摂取がガン予防に有効であると結論づけています。動物発ガン実験を用いて柑橘類に含まれるガン予防成分を研究した結果、モノテルペン類のリモネン(limonene)、フラボノイドのヘスペリジン(hesperidine)、カロテノイドのβ-クリプトキサンチン(β-cryptoxanthin)、クマリンのオーラプテン(auraptene)、ポリメトキシフラボノイドのノビレチン(nobiletin)、水様性食物繊維のペクチン類などの多彩な成分にガン予防効果が報告されています。

ガン予防の作用メカニズムはそれぞれの成分によって異なっています。果皮に多く含まれているリモネンはガン細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を誘導することが、カロテノイド類やフラボノイド類やオーラプテンには抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されています。水様性食物繊維のペクチン類や低分子のオリゴ糖には、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増やして、腸内環境を改善し免疫機能を高めて抗腫瘍効果を示すことも報告されています。

異なる作用メカニズムを持つガン予防物質を組み合わせて用いると、相乗効果によってガン予防効果が高まります。柑橘類には実に様々な活性成分が含まれていますが、これほどまでにガン予防成分が多様な食品素材も稀です。柑橘類は古くから薬用利用が盛んな植物素材の一種であり、陳皮(温州みかんの乾燥果皮)や枳実・枳穀(ダイダイやナツミカンの果実を乾燥したもの)など生薬の原料としても頻用されていることも、柑橘類が多彩な薬効をもっていることを示しています。

【柑橘類のガン予防物質の代表リモネンは皮に含まれる】

柑橘類の果皮の独特の香りは精油(エッセンシャルオイル)によるもので、その主成分はモノテルペン類リモネンです。柑橘類の果皮の精油成分の中でリモネンが90%以上を占めています。

リモネンにはラットの乳腺、皮膚、肝臓、肺、胃など多くの臓器における発ガン実験で予防効果が報告されており、ラットの乳ガンや膵臓ガンなどでガンを小さくする抗腫瘍効果も報告されています。

リモネンには、フェースII解毒酵素の合成を増やして発ガン物質を解毒する力を増強して発ガンのイニシエーションを抑制する作用、ガン細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を引き起こしてガンの発育を抑制する抗プロモーション作用など、多彩なメカニズムで相乗的にガン予防効果を示し、予防だけでなく、転移や再発の予防、ガン治療にも効果が期待されています。果皮には様々なフラボノイドも含まれていて、抗酸化作用や抗炎症作用などによりガン予防効果を助けています。

アリゾナ大学医学部のハーキン博士らは、アリゾナ州の住民を対象に、柑橘類の摂取状況と皮膚ガンの発生状況を疫学的に検討しました。柑橘類の摂取と皮膚ガンの発生率との間に明らかな相関は認めれれませんでしたが、果皮も利用している人が住民全体の約35%いて、その人たちは果皮を摂取していない人たちに比べて皮膚ガンが約66%に減ったと報告されています。そして、柑橘類の果皮を食事に多く取り入れている人ほど皮膚ガンの発生が少ないということでした。果皮に含まれるリモネンやフラボノイド類やオーラプテンなどの総合的な効果が予想されます。柑橘類が乳ガンの予防に効果があることも報告されています。

リモネンなどの精油成分は、唾液や胃液の分泌を高めて消化吸収を促進し、食欲を高めます。副作用もほとんどないので、食事の中で柑橘類の皮を使うことはガンの再発予防にも有効です。ミカンの皮を千切りにして食べたり、皮ごとフレッシュジュースとすると、蒸発しやすい精油のガン予防効果を活用することができます。

【温州みかんに多く含まれるβ−クリプトキサンチンは強いがん抑制効果がある】

日本人に最もなじみの深い温州みかんに多く含まれているβ−クリプトキサンチンに、強い発ガン抑制効果があることが、農水省果樹試験場や京都府立医科大学などのグループの研究で明らかになっています。

β-クリプトキサンチンは柑橘類のオレンジ色のもとになる色素(カロテノイド)の一種であり、柑橘類の中では温州みかんに圧倒的に多く含まれています。このβ-クリプトキサンチンはニンジンに含まれるカロテノイドのβ-カロテンの数倍の強さのガン予防効果を持っている事が、動物発ガンの実験で示されています。β-クリプトキサンチンは温州ミカンの果肉に特に多く含まれていて、果実1個に1〜2mg含まれています。温州みかんを1日一個食べればガン予防に有効な量のβ-クリプトキサンチンを摂取できるそうです。

以上のことから、温州みかんなどの柑橘類を、果肉と果皮を一緒に食べる工夫をすれば、異なるメカニズムを持つガン予防物質を同時に摂取することができることになります。

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