健康診断の落とし穴:

「人間ドックで健康を保証されたにも関わらず、数カ月も経たないうちに病気で倒れた」という話しをよく耳にします。それは、体の異常が目に見える段階にならないと病気を診断できない西洋医学の本質的な欠点が原因となっています。近代西洋医学の診断技術の進歩には目を見張るものがあります。人を輪切りにして見せるCT撮影や、何十もの血液成分の量を自動測定できる検査機器などを見れば、それらを用いた健康診断に全幅の信頼を寄せてしまうのも無理からぬことです。

しかし、レントゲン検査などの画像診断は目で見える異常しか診断できないということと、血液検査に異常が現れたときには、病気はかなり進んでいる、ということを理解しておかなければなりません。機械に例えると、「部品の破損を見つけてから機械の異常を知る」という考え方です。小さな破損の内に気付くことには十分な意義がありますが、しかし、全ての部品が破損なく揃っているから円滑に動くというものではありません。「歯車の噛み合わせ」や「潤滑油」といったものが正常で、機械全体が円滑に機能しているかどうかが故障の防止に重要なはずです。健康診断の本来の役割も「体の不調を知って病気の発生を防ぐ」ことにあるのですが、西洋医学の早期診断・早期治療という二次予防の方法論では、病気そのものを減らすことはできません。

私達の五感は体調の好不調を感じ取ることができます。体の不調を感じる時は、体全体の機能が正常に働いていない事を知らせているのですが、今日まで開発された計測・診断装置の中には、まだ人間の五感に匹敵するような感度・能力を持っているものはありません。不調を感じて診察を受けても、検査で異常がみつからなければ、「様子をみましょう」ということになります。これは「もっと悪くなってから来て下さい」といわれていることと同じことです。「不定愁訴」「機能的異常」「気のせい・歳のせい」などと説明されるかもしれませんが、「病気が完成する」のを待って診断・治療する第2次予防では病気の発生を未然に防ぐことはできません。

血液検査の個々の数値が正常であっても健康状態が良いとはいえません。体のあちこちに癌が広がっているのに、血液検査の数値が全て正常の人もいるのです。普段から体の不調があっても、検査しても何も引っかからない人が多いのも事実です。東洋医学には本格的な病気になる前に、気血水の異常(不足や停滞)などから前触れとなる体の異常や不調を見つけ、器質的病態に至る前の段階(未病という)で治してしまおうという考え方を重視しており、そのための手段(養生法・漢方・鍼灸など)を持っています。生活習慣病の予防には食生活の改善が重要であるということを、西洋医学は最近になって認識してきましたが、東洋医学では4000年以上前から病気の予防や治療に食生活や生活習慣が重要であることを認識しており、医食同源思想や養生法を発展させてきました。すなわち東洋医学の視点は常に病気の一次予防にあるといえます。

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