がんの再発はなぜ起こる

がんの再発を防ぐためには、がん再発がおこる理由と、それを防ぐための理論を十分理解した上で、理論的に納得の行く方法を実践しなければなりません。

【がん細胞が離れた所に飛んでいく事を転移という】

がんができた元の場所を原発巣といいます。がん細胞が原発巣だけに留まっているのであれば、たとえ大きな腫瘍であっても外科手術で完全に切り取ればがんを治すことができます。しかし、がん細胞は原発巣から離れた所へ飛んでいって、別の場所にもガン細胞の塊を形成しながら全身に広がる性質を持っています。これをがんの「転移」といいます。全ての組織には、栄養物や老廃物を運搬するためにリンパ液と血液が流れており、がん細胞はこのリンパ液や血液の流れに乗って、リンパ節や肝臓や肺など全身に運ばれ、新たながん組織(転移巣という)を形成するのです。

転移はがん細胞が原発巣から離れて移動し、血管やリンパ管の中に入り、転移先の臓器内でまた血管外に出て移動し、増殖するという非常に複雑な過程を経て初めて成立します。従って、がん細胞が転移するためには、がん細胞同士が離れやすくなること、まわりの結合組織を分解しながら活発に運動すること、死ににくいことなどの条件が必要で、細胞の増殖や接着や死(アポトーシス)に関連する遺伝子(がん遺伝子やがん抑制遺伝子)の異常が多数蓄積して、悪性化がより進んだがん細胞ほど転移しやすい傾向にあります。良性腫瘍と悪性腫瘍の最も大きな違いは、前者が原発巣だけに留まるのに対し、後者は転移によって全身に広がる性質を持っていることです。

【ガンの転移は大きくなるまで診断できない】

転移したての小さな転移巣は、どんな診断方法を用いても捉えられませんし、当然、手術で取り去ることも不可能です。転移巣のがん細胞が増殖し、目に見える大きさまで数が増えた時に初めてがんの転移が診断できるのですが、その時には既に数億個以上のがん細胞がいることになります(1グラムのガン組織で約10億個の細胞)。

全身にばら撒かれえるというがん転移の性質上、もし一個の転移巣が見つかれば、目に見えないレベルの転移巣は他の部位にも存在すると考えるべきです。例えば、大腸がんの手術後1年たって、CTや超音波検査で肝臓に転移巣が一個見つかったとき、「ガンの転移が肝臓に一箇所見つかりました」としか医者は言えません。目に見えなければ他の部位にも転移がある確証は100%ではないわけですから、この説明は間違いではありません。しかし、実際は「目に見える転移巣が肝臓に一箇所あるから、目に見えないレベルの微小な転移巣が複数(場合によっては無数)あるはずです」というのが常識的な解釈です。このような患者さんの肝臓を病理組織学的に丁寧に調べると、顕微鏡でしか見つからないレベルの小さながん転移巣を多数見つけることができるからです。

大腸がんの肝臓転移では、目に見える転移が少数であれば転移巣を切除するほうがより長く生存できることが報告されています。目に見えないがん転移巣が肝臓全体に広がっている可能性は高いのですが、大きな転移巣を取り去ったあとに、残った目に見えないがん細胞を抗がん剤などで増殖を抑制すれば、がんで死亡するまでの時間稼ぎができるからです。残ったがん細胞が少なければ、免疫力や自然治癒力を高めてやるだけでがん細胞の増殖を押さえ込むことも、がん細胞を消滅させることも可能です。

【転移と取り残しのがん細胞が増殖して再発する】

リンパ液や血液の流れに乗って遠くの臓器に転移するようなガン細胞は、結合組織を分解しながら活発に移動する性質をもっており、周囲組織に広がっていきます。これをがんの浸潤性増殖をいいます。

がんの外科手術では、目で見えるがん組織からできるだけ離れて組織を切除することが基本で、それは目に見えないところまでがん細胞の浸潤が及んでいるため、取り残すと再発するからです。これを局所再発といいます。例えば胃がんで浸潤性の強い未分化がんでは、肉眼的に認められるがん組織の端から5cm離しても、切除断端にがん細胞を認めることがあります。このようにがん細胞を取り残すと必ず局所再発が起こってきます。

がんの外科手術後の再発というのは、がん組織を切除した局所に取り残しがあった場合と、すでにがん細胞が他の臓器に転移していた場合に起こります。がん細胞がどこかに残った場合、次第に増殖して多くは5年以内にそのほとんどが発症してしまいます。治療の効果を比べるために5年生存率(その治療を受けた人の何パーセントが5年後に生存しているかを表わす率)が使われたり、「がんは手術して5年経てば治った」という話を聞くのは、手術後5年後以降に再発することは稀であるからです。しかし、手術の後に補助療法(抗がん剤や放射線による治療)を追加して、再発や転移があっても5年以上生き延びることも珍しくありませんし、増殖の遅いがんでは10年以上してから再発するものもあります。

【手術で完全に切除したつもりでも再発することがある】

治療後にがんが再発してくる確率は、がんの種類(発生臓器)や進み具合(ステージ)によって異なります。がんを切除したあとに、がん細胞の性質(悪性度)や広がり、リンパ節への転移の有無などを顕微鏡で検査すると転移や局所再発の可能性を推測することができます。がんが大きかったり、リンパ節に転移が見つかったりすると、たとえ目で見える転移がなくても、体のどこかにがん細胞が残っている可能性があるので、手術後に抗がん剤や放射線療法によって残存しているかもしれないがん細胞を叩いて再発を予防します。

がん組織が限局していてがんから十分な距離をおいて切除し、リンパ節転移や他の臓器への転移も見つからなかった場合、その手術は治癒切除といいます。がんを根こそぎ切除して、体に残っているがん細胞は居ないと考えるわけですから、治癒切除の場合は理論的にはガンの再発は起こらないはずです。しかし、このような治癒切除でも10-20%は5年以内に再発しているという事実があります。その理由は、目にみえない小さながん転移は診断できないことと、たとえ小さくても肉眼的に見える大きさになったがんは転移するには十分な悪性度を持っていることが多いからです。

大雑把にいって、直径1cmのがん組織(約0.5グラム)には約5億個のがん細胞が、米粒大の大きさで1000万から2000万個のガン細胞がいます。手術中に目で見えるところに米粒大のがん転移があれば見つけることができるかもしれません。しかし、その十分の1の大きさになると肉眼的な診断は困難です。肝臓の中に転移巣がある場合には直径が1cm以上でもみつかりません。臓器の中にある場合には、CTやエコーで検査すれば転移巣を検出することができますが、この場合には1cmくらいに大きくなっていないと検出は困難です。つまり、がん細胞が数億個に増えるまでは多くの場合、体の外からがんの転移を検出することは困難なのです。

【がん組織の増大速度を遅くすれば再発を遅らせることができる】

腫瘍の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(Doubling Time, DT)といっています。一個のがん細胞が30回分のTDを経て約10億個(≒230)のがん細胞からなる約1グラムのがん組織に成長し、さらにもう10回分のDTを経ると1kgのがん組織になる計算です。

固形がん(胃がんや肺がんのように塊をつくるがん)のDTは通常は数十日から数百日のレベルと言われています。例えば、早期大腸がんの平均DTが26ヶ月(18-58ヶ月)という報告や、肺がんの平均DTが166日という報告がなされています。しかし、転移するようながん細胞は増殖速度も早いのでDTはもっと短くなっています。

がん転移は、最初は一個のがん細胞から始まって次第に数が増えていきます。がん細胞の増殖速度が早ければがん組織のDTは短くなりますが、細胞の増殖速度を遅くしたり、免疫細胞ががん細胞を殺す力を高めたり、血流を阻害してがん組織に栄養が十分行かないようにすれば、そのがん組織のDTを長くする事ができます。

DTが1ヶ月のがん組織は40ヶ月で1kgの大きさに成長してしまいますが、DTを2倍にすれば1kgになるのに80ヶ月かかることになります。つまり、DT(体積倍加時間)を2倍に伸ばすことができれば、手術後の生存期間を2倍に伸ばすことができます。たとえがん細胞を完全に殺すことができなくても、がん組織の増大速度を遅くするような方法をとれば、がんと共存しながら延命することが可能となるのです。がん組織のDTを少しでも長くする方法を幾つも併用すれば、もっと長く再発を遅らせることができ、より長くがんと共存していくことが可能となるのです。

 

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◯ がん治療後の再発予防や、進行がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。