生薬に含まれるセスキテルペン(Sesquiterpene)類には抗がん剤の効き目を増強する効果を持つものがある。

1.転写因子のNF-kBが活性化されると抗がん剤が効きにくくなる。

がん細胞が抗がん剤によってDNA合成や細胞分裂が阻害されると、アポトーシスという細胞死のメカニズムが作動してがん細胞が死んでいきます。一方、細胞にはアポトーシスによる細胞死に抵抗する仕組みもあります。転写因子のNF-kBが活性化されるとがん細胞は死ににくくなることが知られています。

細胞の機能はいろんな働きをもった蛋白質によって調節されています。蛋白質は遺伝子であるDNAからメッセンジャーRNA(mRNA)が作られ、このmRNAから蛋白質が合成されます。DNAからmRNAを作る過程を「転写」といい、転写を調節している蛋白質を転写因子といいます。

NF-kBも一種の転写因子で、特に炎症や免疫に関連する蛋白質を作り出すときに活性化されます。種々のがん細胞でも、増殖刺激や酸化ストレスなどで活性化され、細胞が死ににくくする蛋白質の合成にも関与しています。抗がん剤が効きにくくなったがん細胞ではNF-kBの活性化が関連していることがあります。NF-kBの活性を抑えるような薬を使うと、がん細胞が死にやすなって抗がん剤の効き目が上がることが報告されています。

(注:NF-kBの活性化とは

NF-kB(nuclear factor-kB)はIkB(inhibitor-of-kB)と呼ばれる抑制蛋白質と複合体を形成し、不活性な状態で細胞質中に存在します。NF-kBと結合したIkBは、細胞が薬物や酸化ストレスなどによる刺激を受けるとリン酸化されてNFkBから解離します。この解離が引き金になってNF-kBが核内へ移行し、DNAと結合することによって、遺伝子の転写を刺激します。

乳がん細胞を用いた実験では、NF-kBの活性化は抗アポトーシス遺伝子として知られる
c-inhibitor of apoptosis 2 (c-IAP2)とmanganase auperoxide dismutase (Mn-SOD)の過剰発現を引き起こし、化学療法剤によって誘導されるアポトーシスを阻害することが実験で見出されています。このように、がん細胞におけるNF-kBの活性化はアポトーシスを阻害することによって抗がん剤に対する感受性の低下を引き起こす原因となっています。

2.生薬に含まれるセスキテルペン(Sesquiterpene)類の中にNF-kBの活性を抑えるものがある。

テルペンというのは芳香のある植物精油の主成分の総称で、一般に5n個の炭素原子からなる炭素骨格を持ちます。n=2,3,4,6のものをそれぞれモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、トリテルペンと呼びます。モノ、セスキテルペンには香料として使われているものが多くあります。

テルペン類は香りだけでなく、血行や胃腸の働きを良くするなどいろいろな作用をもっています。特に、セスキテルペン類には、抗炎症作用や抗がん活性などの作用によって注目されています。最近、パルテノライド(Parthenolide)というセスキテルペンが、NF-kBの作用を強力に阻害することが明らかになりました。現在ではパルテノライドはNF-kB阻害剤の試薬として研究にも使われています。このパルテノライドという物質は、欧米で関節炎や偏頭痛の治療に使われているフィーバーフュー(Tanacetum parthenium, ナツシロギク)というハーブの主成分です。

パルテノライドとよく似たセスキテルペンにコスツノライド(costunolide)があります。コスツノライドは木香という生薬に含まれており、発がん予防効果などが幾つも報告されている物質です。パルテノライドやコスツノライドなどのエスキテルペン類には、がん細胞のNF-kBの活性を阻害することによって、抗がん剤の効き目を高める可能性が報告されています。

3.パルテノライドががん細胞の抗がん剤感受性を高めることが報告されている。

米国インディアナ大学の外科のグループは、抗がん剤抵抗性の乳がん細胞にパルテノライドを併用すると抗がん剤の感受性を高めることができることを示しています。

Paclitaxel sensitivity of breast cancer cells with constitutively active NF-kappaB is enhanced by IkappaBalpha super-repressor and parthenolide.
Patel NM, et al.Oncogene 19:4159-4169,2000