乳がんの再発予防について考える:

乳がんが再発すると、その治療は極めて困難です。再発は運命のように諦めている人もいますが、再発は予防できます。がんの再発予防に関する考え方はこのサイトでも解説しています。(がんの再発予防参照
ここでは、乳がんの再発予防について私の意見や考え方をまとめています。
【乳がんの特徴】

現在日本では、乳がんが増え続けています。最近の統計では、1年間で約3万人が新しく乳がんになり、1年間に約9000人の方が乳がんで亡くなっています。

乳がんでは「がんの大きさが2cm以内で、腋の下のリンパ節に転移のないもの」を一般的に早期がんと呼んでいます。この段階で発見できれば80%以上の確率で治癒します。
しかし、乳房のしこりなどの症状に気づいて受診するケースが大部分を占めていますので、現在でも半数以上が進行がんの状況で見つかっています。

乳がんには他のがんと異なる特徴がいくつかあります。例えば、
(1)閉経前の比較的若い女性に多い。
(2)女性ホルモンのエストロゲンの作用によって増殖が促進される。
(3)肥満や高脂肪・高栄養の食事で発生が促進される。
(4)乳がんの手術を受けた人は、もう一方の乳房にもがんが発生する危険性がある。
(5)乳がんの進行は遅いので、10年以上たってから再発することもある、
などです。

乳がんの手術といえば、昔は乳房と胸の筋肉を一緒にとってしまう「ハルステッド法」が主流でしたが、最近は乳房を温存するなど切除範囲を小さくして、放射線照射や化学療法(ホルモン剤や抗がん剤)を併用した治療法が主流になってきました。手術後に残っている可能性のあるがん細胞を放射線や抗がん剤で殺し、エストロゲンで増殖が促進されるので、手術後に抗エストロゲン作用をもった薬を数年間飲み続けて再発を予防します。

通常、閉経後はエストロゲンの分泌が落ちるので乳がんのリスクは少ないのですが、太った人では閉経後でも乳がんが発生します。その理由は、エストロゲンは卵巣だけでなく、体の脂肪組織でも作られるからです。従って、肥満や高脂肪・高栄養の食事が乳がんになる危険性を高めることになるのですが、食生活の改善や運動によって発がんや再発のリスクを減らす効果の高いがんとも言えます。

最近は増殖因子の働きを抑える薬など新しい薬が開発され、進行がんや再発がんでも延命する手段は増えてきました。しかし、若い人が10年以上も再発を恐れて暮らさなければならないのは、乳がんの治療後の大きな問題となっています。再発予防には、薬に頼るだけでなく、自分でできることも多いことを知って、それらを日常の生活の中で実行することが大切です。

【乳がん発生と食生活について】

アメリカに移住したアジアの人々(アジア系アメリカ人)の乳がんが発生率は、アメリカ白人女性に比べて低いのですが、アジアに住んでいる人々と比べると明らかに高いことが知られています。その理由として考えられるのは、アメリカに移住したあとの食生活やライフスタイルの変化などとの関連が推測されています。例えば、大豆食品の摂取の減少が乳がん発生率上昇と密接に関連しているという報告があります。アメリカ移住者は時を経るに従い豆腐の摂取量が減り、それに反比例して乳がんの発生が増えるという報告があります。もちろん、豆腐が原因かどうかはまだわかりません。豆腐の摂取が多いということは、食生活自体がまだ欧米化されていないことの単なる指標にすぎない可能性もあり、その他の食事要因の関与もまだ否定はできません。しかし、動物発がん実験の結果から、味噌など大豆食品が乳がんなどを予防する効果が報告されています。乳がん患者の中には遺伝的要因が高い人もいます。乳がん発生と関連の深いがん抑制遺伝子が知られており、この遺伝子の変異を持っている家系では乳がんが多発します。このような家族性の乳がん、すなわち遺伝的に乳がんになりやすい体質を生まれつき持っている人の比較でも、その発症年齢は、白人に比べて日本人のほうが遅いという結果も報告されています。これも食生活やライフスタイルが乳がんの顕在化を遅延化させている証拠です。

【乳がん治療後の再発予防のために何をすべきか】

がんが早期に見つかり、治療によって「治癒」に至った患者さんにおいても、がんの再発・転移に対する不安は常につきまといます。
万が一、再発・転移を生じたら、一刻も早く発見し治療を開始したいと願うのは、当然の心理です。しかし初発がんとは異なり、「再発・転移がんの場合、早期発見・早期治療はほとんど意味が無い」というのが、現在の世界のコンセンサスです。つまり、初発がんの治療後に、腫瘍マーカーの検査や、PETやCTなどの画像診断によって再発・転移のスクリーニングを行うことは意味が無いという事です。

例えば乳がんの場合には、治療後にこれらの検査で再発・転移が早期に発見された患者と、特別な検査を受けなかった患者の間で、治療成績や生存期間はほとんど変わりが無いという結果が報告されています。
これは、乳がんに限らず、ほとんど全ての固形がんに共通の傾向です。そのため米国では、固形がんの再発・転移の発見のための検査を医療保険で行うことは、いっさい認められていません。つまり、がん治療後に、検査を定期的に行って、少しでも早く見つける努力をしても、報われないということです。

初発がんの治療後に残っているかもしれないがん細胞を叩くために抗がん剤や放射線治療が行われます。再発・転移は、このような治療で死滅せずに生き残ってきた強靱ながん細胞が増殖して生じるものであり、治療が極めて困難です。
現在の治療法では、再発・転移がんが発見された患者を「完治」に導くことはほとんど不可能に近く、多少発見が早くてもその後の経過は大差ないということです。

それでは、がん治療後は何もしないで、運命に任せるしかないのでしょうか。治療が終わった段階で、残っているがんが、どのような事をしても決められた速度で増殖していくのであれば、何をやっても意味が無いということになります。
しかし、野菜の多い食事を取っている人は、そうでない人に比べて、がん治療後の再発率が低下するという報告があります。 
野菜の摂取とがんの予後を調べた報告があります。ハワイ大学のメア・グッドマン博士たちが675人の肺がん患者の食事と生存期間の関係を6年以上にわたって調べた結果、より野菜を食べているものは平均33ヶ月生きたのに、野菜嫌いの患者は18ヶ月の生存期間であったと報告しています。日本でも同じような報告があります。
食事の内容いかんで、再発率に差がでてくるということは、がんの予防に効果のあることを実践すれば、がんの再発や転移の抑制も可能ということです。

【がん組織の増大速度を遅くすれば再発を遅らせることができる】

腫瘍の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(Doubling Time, DT)といっています。一個のがん細胞が30回分のDTを経て約10億個(≒230)のがん細胞からなる約1グラムのがん組織に成長し、さらにもう10回分のDTを経ると1kgのがん組織になる計算です(図)。

図:がんの体積倍加時間(doubling time)。
がん組織の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(DT)という。1個のがん細胞が20回分のDTで1ミリグラム(約100万個)のがんになるが、この時点ではがん組織は目に見えない。さらに10回分のDTを経て1グラムのがん組織になって診断できるようになる。さらに10回分のDTで1キログラムのがん組織になるとがん死する。

固形がん(胃がんや肺がんのように塊をつくるがん)のDTは通常は数十日から数百日のレベルと言われています。例えば、早期大腸がんの多くはDTが18〜58ヶ月の間でその平均が26ヶ月という報告や、肺癌の平均DTが166日という報告がなされています。しかし、転移するようながん細胞は悪性度が増して増殖速度も早いのでDTはもっと短くなっています。

がん転移は、最初は1個のがん細胞から始まって次第に数が増えていきます。がん細胞の増殖速度が早ければがん組織のDTは短くなりますが、細胞の増殖速度を遅くしたり、免疫細胞ががん細胞を殺す力を高めたり、血流を阻害してがん組織に栄養が十分行かないようにすれば、そのがん組織のDTを長くする事ができます。

DTが1ヶ月のがん細胞が一個残っていると40ヶ月で約1kgの大きさに成長してしまいますが、DTを2倍にすれば1kgになるのに80ヶ月かかることになります。つまり、DTを2倍に伸ばすことができれば、手術後の生存期間を2倍に伸ばすことができます。たとえがん細胞を完全に殺すことができなくても、がん組織の増大速度を遅くするような方法をとれば、がんと共存しながら延命することが可能となるのです。がん組織のDTを少しでも長くする方法を幾つも併用すれば、もっと長く再発を遅らせることができます。

【再発予防は医師まかせではだめ】

オあとは、患者さんのみならず主治医も再発が心配です。そこで、他の臓器への転移や手術後の取り残しが予想される場合には、残っている可能性のあるガン細胞を抗ガン剤や放射線によって殺す治療法(術後補助治療という)を行ないます。目に見えなくても、残っている可能性があるガン細胞を抗ガン剤や放射線照射によって叩いておくほうが再発予防には効果があるからです。しかし、強力な抗ガン剤投与は免疫力や抵抗力を低下させることによって再発を促進する可能性も指摘されており、その手加減に関しては議論の余地があります。
 ガンが小さくて転移の可能性がないと考えられる場合には、ガン細胞を完全に切り取れば治療は終了となりますが、このような早期のガンでも再発することがあります。ガンが目で見えるほど成長した段階では既に数億個以上のガン細胞が増えていて、その一部がリンパ液や血液の流れに乗って遠くへ転移している場合があるからです。手術後に再発(転移や局所再発)が見つかれば、ガン細胞を取り除く治療(手術、抗ガン剤、放射線)が再開されます。
 このように、ガンの治療後に転移や再発を見越した補助治療が行われていますが、医者が行えるのは薬や放射線などを使ってガン細胞の増殖を抑えることが中心となります。ガン細胞を直接攻撃する治療法以外にも、ガンに対する抵抗力を高めるための健康食品や自然療法や伝統医学などの活用、再発のリスクを減らすための食生活やライフスタイルの改善、心の働きで体の自然治癒力を高めるイメージ療法や精神療法など、患者自身で行える再発予防の方法がたくさんあります。このような治療法は先進国で一般的に行われている通常療法(=西洋医学)とは区別されて代替療法と呼ばれています。代替療法の多くは医学部で教えていないこと、健康保険を使って行えないこと、臨床効果の証明がまだ十分でないこと、などの理由により医者が行うことはほとんどありません。
 代替療法の中にはガンの再発予防や治療に有効なものもたくさんあり、これらを適切に使用すれば、ガンの再発を遅らせることも防ぐことも可能なのですが、医者が指導してくれない以上、自分で勉強して実行するしかありません。ガンの種類や進行度、体力や体質や性格、食生活や生活習慣などによって、ガン再発予防のために必要な方法は患者さんそれぞれで違ってきます。ガン死から逃れるためには、患者さん自身が自分のガンの再発を予防するために何をすべきかを判断できるように勉強することも必要なのです。

【乳がんと大豆製品やフィトエストロゲンの関係】以下を参照して下さい。

topics-4
乳ガン治療後のフィトエストロゲン摂取について:(エストロゲン依存性の乳ガンの場合に大豆製品は控えるべきか)

topics-5
薬用人参(Ginseng)にエストロゲン様活性が報告されているが、乳ガン治療に使用する危険性はないか?

topics-14
高麗人参(Ginseng)のエストロゲン活性:topics-5の続報

【乳がんの再発予防におけるCOX-2阻害剤の可能性】

乳がん細胞はシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性が高いので、COX-2阻害剤は乳がんの再発予防に効果があることが示唆されています。
CoX-2とCOX-2阻害剤に関してはtopics-11を参照して下さい。

【乳がんの再発予防の漢方治療】

漢方治療で体の治癒力を高めることはがんの再発予防に有効です。漢方薬は免疫力や抗酸化力を高めます。抗がん活性を持つ生薬もあります。これらを組み合わせた漢方薬を使用すれば再発予防に有効です。

漢方を使ったがん再発予防に関する私の考え方についてはこちらの記事を参照して下さい。