Nutrition and Cancer 2000;37(1):1-18
Dietary antioxidants during cancer chemotherapy: impact on chemotherapeutic effectiveness and development of side effects.(ガン化学療法中の食事由来抗酸化物質:化学療法の有効性と副作用の発生における影響)

アメリカのカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)医学部の麻酔科のコンクリン教授(Conklin KA.)の総説。

【要旨】

抗酸化作用を持った食品サプリメントが、ガンの化学療法に対する反応性のみならず、抗ガン剤の副作用の発生にも影響することがいくつかの研究によって示唆されている。

抗ガン剤の投与は、フリーラジカルや活性酸素を産生して酸化ストレスを引き起こす。抗ガン剤はガン細胞の増殖しているときに効き目を現すが、酸化ストレスは細胞増殖の速度を遅くするので、抗ガン剤投与中の酸化ストレスの増大は、抗ガン剤の殺細胞効果を阻害する可能性がある。抗酸化剤は活性酸素を消去して化学療法の抗腫瘍効果を高めることが期待できる。

ある種のサプリメントでは、抗酸化作用の他にも、トポイソメラーゼIIやプロテイン・チロシンキナーゼの阻害作用などもその抗腫瘍効果を高めることに寄与しているかもしれない。

多くの抗ガン剤投与中に見られる胃腸障害や発ガン性などの副作用の発生には活性酸素が原因になっている。ドキソルビシンによる心筋障害、シスプラチンによる腎臓障害、ブレオマイシンによる肺線維症などの、特定の抗ガン剤に限られた副作用にも、活性酸素は関与している。抗酸化剤はこのような副作用の多くを減らしたり予防したりできる。さらに、ある種のサプリメントに関しては、抗酸化作用以外の作用も副作用予防効果に関与している。

しかしながら、脱毛や骨髄障害のような副作用は抗酸化剤では予防できない。これらの副作用(脱毛や骨髄障害など)を防止するような薬は、抗ガン剤の抗腫瘍効果をも阻害する可能性がある。

【イントロダクション】

化学療法は長い間ガン治療の重要な地位を占めている。より有効性が高くかつ毒性の少ない抗ガン剤の開発のための研究が懸命に行われているが、既存の薬の有効性を高めるような要因についての関心はあまり払われていない。

食事成分の中に、抗ガン剤の効き目を強くしたり、抗ガン剤の副作用を軽減したり予防するような物質が含まれているかもしれない。この総説では、抗酸化作用や細胞の抗酸化システムに影響するような食品サプリメントの幾つかについて言及する。抗ガン剤への反応性への影響や副作用の軽減効果について最もよく研究されている抗酸化剤サプリメントを中心に解説する。

抗酸化作用を持たない食品サプリメントもガン化学療法の効果に影響する可能性があり、また多くの食品サプリメントが、血管新生や転移や免疫力のようにガンの進展に関わる要因に影響する可能性もあるが、これらについては、この総説では言及しない。

(以下、要点のみ)

【酸化ストレスと化学療法の有効性】

細胞がDNAを合成して細胞分裂して過程(細胞周期という)にかかる時間は種々の要因によって左右されるが、その一つに酸化ストレスがある。

酸化ストレスによって過剰な活性酸素が産生されると、細胞の脂質の過酸化を引き起こす。細胞のDNA合成速度と細胞増殖速度は、細胞の脂質の過酸化の程度と逆相関の関係がある。過酸化脂質には細胞増殖を抑制する作用があり、酸化ストレスは細胞増殖を抑制する。過酸化脂質による細胞増殖の抑制作用は抗酸化物質によって解除される。

抗ガン剤は、DNAにダメージを与えたり、細胞分裂の過程を阻害することによってガン細胞を殺している。したがって、ガン細胞の増殖がストップした状態では抗ガン剤は効かない。アルキル化剤白金製剤のような抗ガン剤は、増殖していない細胞のDNAに対しても障害作用を示すが、増殖していない細胞はDNA修復酵素が十分に働いてしまうので、細胞を殺すことはできない。

つまり、抗ガン剤はガン細胞が増殖している時にのみ殺細胞効果を示すのである。したがって、酸化ストレスはガン細胞の増殖を遅くし、抗ガン剤が効きにくくさせる。増殖の遅いガン(肺ガンや大腸ガンなど)は、増殖周期にないガン細胞が多くいるので効果が現れにくいのである。

ガン細胞は脂質の過酸化を防ぐような防御メカニズムを発展させており、ガン細胞の脂質は、正常細胞に比べて過酸化脂質が少ないといわれている。そのためにガン細胞の増殖速度は早くなっているが、過剰な酸化ストレスが起こると、増殖速度は低下する。

【ガン、化学療法、酸化ストレス】

ガンそれ自体は、宿主であるヒトに酸化ストレスをもたらす。例えば、ガンを植え付けられた動物では、脂質過酸化物の量が急速に増加し、宿主の抗酸化防御システムは障害される。同様なことがガンをもったヒトでも起こっている。抗酸化防御システムの破綻の原因の一部は、栄養不良も関連している。

しかしながら、ガン細胞は抗酸化システムを発達させて、生体の酸化ストレスに打ち勝って、早い増殖速度を維持することができる。ガンによって引き起こされる酸化ストレスにガン細胞自体は打ち勝つことができるが、宿主側の酸化ストレスの増大は、宿主の免疫力を低下させ、ガン細胞のイニシエーションやプロモーション過程を促進させる。

抗ガン剤の投与は、ガン自体で引き起こされる酸化ストレス以上に、より多くの酸化ストレスを宿主に与えている。ほとんど全ての抗ガン剤において、その投与中には、血液中の抗酸化物質(ビタミンE,C, カロテン、グルタチオン)の量は減少している。

ドキソルビシンがスーパーオキシドラジカルを発生させるように、ある種の抗ガン剤が活性酸素を発生することはよく知られている。このような活性酸素の発生は酸化ストレスを増大して、ガン細胞の抗酸化システムの力を超えると、ガン細胞の脂質の過酸化が起こり、ガン細胞の増殖が止まり抗ガン剤が効かなくなる事になる。

このように、ガン患者の抗酸化の状態が化学療法の効果に影響し、抗酸化力の低下している患者では化学療法の効果は悪い。従って、化学療法中に、食品などから抗酸化物質を補給する事は、抗ガン剤の効き目を高めることになる。

一つの問題は、抗酸化作用を持った食品サプリメントが、抗ガン剤の抗腫瘍効果(殺細胞効果)を阻害するかどうかである。しかし、その可能性は低い。その理由は、多くの抗ガン剤の作用メカニズムには、活性酸素の関与はないからである。多くの研究において、抗酸化剤は抗ガン剤の効き目を阻害することはなく、むしろ抗ガン剤の効果を増強することが示されている。

【酸化ストレスと抗ガン剤の副作用】

抗ガン剤投与により発生する酸化ストレスは、抗ガン剤の効き目を阻害するだけでなく、多くの副作用の原因となっている。したがって、抗ガン剤治療中に抗酸化物質を投与することは、抗ガン剤の副作用を軽減する効果も期待できる。

ドキソルビシンによる心筋障害、ブレオマイシンによる肺線維症、シスプラチン投与による腎臓障害、神経障害、聴力障害などの発生原因として活性酸素が関与している。

化学療法は、消化管の広範な粘膜障害を引き起こし、これが吐き気や嘔吐、下痢や胃腸炎などの原因となり、粘膜のバリアーを壊して病原菌が侵入したり、毒性物質が体内に入るリスクを増大させ、栄養の吸収を妨げている。このような消化管の粘膜障害は、増殖の早い粘膜細胞が抗ガン剤で障害されるからであるが、活性酸素の発生も関与している。

化学療法のあと数年してから発生する副作用として、2次ガンの発生がある。これは主に急性白血病の発生であり、通常、最初のガンの治療のあと4〜5年の潜伏期間をおいて発生する。化学療法を受けた5〜10%の患者に2次ガンが発生することが、多くの研究において報告されている。2次ガンは、もとのガンより化学療法に抵抗性のものが多い。活性酸素や脂質過酸化物は変異原性(発ガン性)があり、化学療法中に発生する活性酸素は2次ガンの発生に重要な役割を果たしている。抗酸化物質は抗ガン剤の発ガン性を防ぐ効果がある。

抗ガン剤の副作用のうち、骨髄障害脱毛は、増殖の早い正常細胞(骨髄細胞や毛根細胞)に対する抗ガン剤の細胞毒性によって現れ、これらは抗酸化剤では予防できない。むしろ、これらの副作用は抗ガン剤の効き目の指標であり、これらを防ぐような薬剤は抗ガン剤自体の効き目を阻害している可能性がある。

ビタミンEは脂質の過酸化を阻害して抗ガン剤の効き目を増強しているが、マウスにドキソルビシンを投与して発生する骨髄障害は促進することが報告されている。したがって、化学療法中に抗酸化剤を投与する時には、骨髄細胞の障害が促進される可能性があるので注意が必要となる。

【抗ガン剤の効果と副作用に対する抗酸化剤の作用】

Vitamin E

1) 細胞膜の脂質の過酸化による細胞増殖抑制を解除する。

2) いくつかの抗ガン剤(5-fluorouracil ,doxorubicin, vincristine,dacarbazine, cisplatin, tamoxifen)の殺細胞効果を増強する。

3) 抗ガン剤の種々の副作用を予防する。(ドキソルビシンの心筋障害、ブレオマイシンの遺伝子障害、シスプラチンの腎臓障害、2次ガンの発生などの予防)

4) 骨髄障害や脱毛や消化管の粘膜障害による症状(吐き気、嘔吐、下痢など)は防止できない。しかし、回復を促進する効果はある。

Vitamin C

1) 水溶性の抗酸化剤で、水溶液中の活性酸素を消去することによって、それらが細胞膜の脂質の過酸化を引き起こすところをブロックする。

2) いくつかの抗ガン剤( doxorubicin,cisplatin, paclitaxel, dacarbazine,5-FU, bleomycin.)の殺細胞効果を増強する。

3) ある種の抗ガン剤の蓄積を促進し、抗ガン剤抵抗性を減弱させる効果もある。

4) 2次ガンの発生を予防する効果が推測される。

Coenzyme Q10 (Ubiquinone)

1) Coenzyme Q10 (CoQ10) はミトコンドリアにおける電子伝達系における必要な物質であり、また細胞膜の脂質ラジカルを消去する脂溶性の抗酸化物質としても働いている。CoQ10 はミトコンドリア内にあって、ミトコンドリア膜の脂質の酸化障害を防ぐ上で重要な役割を果たしている。

2) 化学療法中のCoQ10 補充は、ドキソルビシン(アドリアマイシン)で引き起こされる心筋障害(この副作用は他の抗酸化剤では予防できない)を防ぐことができる。アントラサイクリン系の抗ガン剤(ドキソルビシンなど)の全てで発生する可能性のある心筋障害には鉄イオンが関連した酸化物質の産生が関連しており、ドキソルビシンにより発生するフリーラジカルは心筋細胞のミトコンドリアの膜の脂質の過酸化を引き起こす。

さらに、ドキソルビシンは心筋のミトコンドリア膜のCoQ10 の量を減らし、CoQ10-依存性酵素の作用を阻害してATPの産生を低下させ、ミトコンドリアにおける CoQ10の産生そのものを抑制する作用がある。このような作用もドキソルビシンによる心筋障害の発生と関連している。

アントラキノン系抗ガン剤のドキソルビシンと、CoQ10(ユビキノン)は両方ともキノンという共通の構造をもつため、ドキソルビシンはCoQ10の作用を妨げるので、心筋障害が発生する。ドキソルビシンにより発生する活性酸素はCoQ10を酸化して 、電子伝達系としてのCoQ10 の 作用を阻害する。このような障害作用によって心筋細胞でのATPの産生が障害されるので、心臓機能の低下が起こるのである。

ドキソルビシンによる慢性の心筋障害は、ミトコンドリアのCoQ10の産生を阻害して、 CoQ10の量が減少し、エネルギーであるATP産生が障害されることも関連している。このような心筋障害はビタミンCやEのような抗酸化剤では予防できず、CoQ10(ユビキノン)の補充により防げることが示されている。

3) CoQ10(ユビキノン)はドキソルビシンによる抗腫瘍効果や骨髄抑制に対しては影響しない。

以上のことから、アントラサイクリン系の抗ガン剤を投与するときには、CoQ10 の投与は、抗腫瘍効果を妨げずに、心筋障害を予防する有効で安全な手段である。

カロテン(Carotene)

1) 脂溶性の抗酸化剤。抗ガン剤の効果を増強することが動物実験で報告されている。

2) 抗ガン剤の変異原性(発ガン性)を減らす。動物実験で、サイクロフォスファミドの長期低用量投与による腫瘍の発生率を減らす。

グルタチオン(GSH)

1) グルタチオンは3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)から成る水溶性の抗酸化物質で、細胞内に大量に存在する。グルタチオンの中のシステインに含まれるSH基が電子供与体となり、フリーラジカルに電子を与えて安定化させる働きがある。

細胞内には還元型グルタチオン(GSH)として存在し、電子を与えたあとは2量体(GSSG:酸化型グルタチオン)に変化して安定になるため、フリーラジカルによる電子の連続的な奪い合いを止めることができる。還元型グルタチオンを電子供与体として過酸化水素を水と酸素に分解したり、脂質過酸化物を還元して無毒化するのがグルタチオン・ペルオキシダーゼ。酸化型グルタチオン(GSSG)はグルタチオン・レダクターゼがNADPHからの電子をGSSGに転移してGSHに戻る。

GSH は細胞内には直接輸送されない。GSHはいったんグルタミン酸(Glu)とシステイン-グリシン(CysGly)に分解された後に細胞内に取り込まれ、GSHの合成に使われる。

従って、径口的あるいは注射で取り入れたGSHや、肝臓で合成されたGSHは、各組織でのGSH合成の材料となって、全身の細胞のGSHレベルを高めることになる。

一方、グルタチオン・モノエステル(GSH monoesters)は径口投与でそのまま吸収され、細胞内にそのまま輸送されてGSHに分解されるので、GSHより効率的に組織内のGSHレベルを高めることができる。

2) GSHはシスプラチン投与によって引き起こされる腎臓障害や末梢神経障害を軽減する。シスプラチンのこれらの副作用には酸化障害の関与が大きいが、GSHによる予防効果にはその抗酸化作用だけでなく、GSHとシスプラチンの化学的相互作用も関連している。

GSHのシステインに含まれるSH基が化学反応性が強いので、シスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤の活性部分と反応して、これらの抗ガン剤の殺細胞作用を不活化させる可能性がある。もし、この不活性化が、薬剤がガン細胞に取り込まれる前に起これば、抗ガン剤の効果は消失してしまう。同様の懸念は、アルキル化剤とGSHを併用する場合にも起こる。アルキル化剤はDNAと反応して抗ガン活性を発揮するが、GSHはアルキル化剤の活性部分と反応して不活化させる。したがって、白金製剤やアルキル化製剤をGSHのようにチオール基(SH基)をもった薬剤と同時に併用する時には十分な注意が必要である。

3) 動物実験において、シスプラチン投与の前あるいは投与後30分以内に大量のGSHを投与すると、シスプラチンによる腎毒性や神経障害を予防した。GSHよりGSHエステルの方が効果は強い。これらの研究において、GSHやGSHエステルはシスプラチンの抗腫瘍活性を阻害しなかった。

4) GSHとシスプラチンは血中から急速に消失する。したがって、両者の投与を間隔をあけておけば、それが短時間であっても、両者が化学的に反応して抗ガン剤の活性が低下するという可能性はなくなる。さらに、GSHを Glu とCysGlyに分解して細胞内に輸送する酵素(gamma-glutamyl transpeptidase)はガン細胞には少なく正常細胞に多く含まれるので、GSHはガン細胞より正常細胞(特に腎臓細胞)に多く取り込まれ、GSHは正常細胞をより選択的にシスプラチンの副作用から防御することになる。

5) マウスを使った実験で、GSH投与はドキソルビシンによる急性の心筋障害を防止した。これはGSHの細胞内濃度が上昇してドキソルビシンにより発生する活性酸素を消去させるからであり、ドキソルビシンの抗腫瘍活性を阻害する作用は認めなかった。

6) マウスやラットを使った実験で、GSH投与はサイクロフォスファミドによる肝臓障害や膀胱障害を軽減した。この際、骨髄障害は軽減せず、抗腫瘍効果を阻害する事はなかった。

7) ヒトにおける臨床研究で、シスプラチンを投与する少し前にGSHを投与すると、腎臓障害や末梢神経障害が軽減され、より多い量の抗ガン剤を使用することが可能であった。

その他多くの臨床研究で、GSHの投与は抗ガン剤の奏功率(ガンを小さくする効果)を高め、副作用を軽減することが示されている。Quality of lifeを高めることも報告されている。シスプラチンによる抗腫瘍効果を阻害せずに、骨髄抑制や脱毛の副作用も軽減する。その理由は、ガン細胞より正常細胞の方にGSHが多く取り込まれるためと考えられている。シスプラチンの量を増やすこともできるので、GSH投与は抗腫瘍効果を増強することもできる。

N-Acetylcysteine

1)N-acetylcysteine (NAC) は経口投与でよく吸収され、細胞に容易に輸送され、細胞内で脱アセチル化される。NACはチオール化合物で、フリーラジカル消去作用を持っているが、もっと重要なことは、グルタチオン合成に必要なシステイン(cysteine)の供給源となることである。
しかしながら、グルタチオンの場合と同様に反応性に富むチオール基(SH基)が、アルキル化剤や白金製剤と反応して、これらの抗ガン剤を不活性化する。

従って、シスプラチンの細胞毒性や活性酸素産生を阻害する。グルタチオンと同様に、アルキル化剤や白金製剤を使った化学療法中にNACを投与するときには注意が必要である。

2)シクロフォスファミドの副作用の出血性膀胱炎を予防する。シクロフォスファミドとNACを同時に投与しても抗ガン活性を減弱させることはない。

3)NACはドキソルビシンの抗ガン活性を減弱させずに、急性の心筋障害を予防する。慢性の心筋障害に対しては予防効果はない。

4)NAC はシスプラチンと複合体を作ることによってシスプラチンによる腎毒性を軽減する。他の抗酸化剤と同様に、ブレオマイシンによるDNA障害を防止する。

グルタミン(Glutamine)

1)グルタミンは抗酸化活性はもっていないが、GSH合成の為のグルタミン酸の供給源となって、細胞の抗酸化システムを増強させる。

グルタミンは非常に早く増殖している消化管上皮細胞のエネルギー源となるので、抗ガン剤投与中のグルタミン補充の重要な役割は、5-FUやmethotrexateのように腸粘膜の障害を起こしやすいような抗ガン剤による消化管障害の程度を減弱させることである。

2)動物実験で、グルタミンはメソトレキセート(methotrexate)のガン細部内の濃度を高めることによって、抗腫瘍効果を増強させることが示されている。グルタミンを経口投与すると(静脈注射では効かない)、メソトレキセートや5-FUによって生じる胃腸炎による粘膜障害や敗血症を防止する効果がある。

3)臨床例においても、種々の抗ガン剤によって引き起こされる胃腸障害が、グルタミンの経口投与により予防されることが報告されている。

セレニウム(Selenium)

1)無機物としてのセレニウムには抗酸化作用はないが、抗酸化防御システムを構成しているセレン含有蛋白の合成に必要である。

セレニウムはセレノシステイン(selenocysteine)としてセレン含有蛋白に含まれる。グルタチオオン・ペルオキシダーゼが代表的なセレン含有蛋白であり、その他のセレン含有蛋白も抗酸化防御システムに関与している。

2)動物実験にて、有機あるいは無機のセレニウムはシスプラチンで引き起こされる腎障害を防御する。この時、シスプラチンの抗ガン活性を低下させる作用はないので、セレニウムの投与により抗ガン剤の投与量を増やして効果を高めることができる。

3)ドキソルビシン投与によって引き起こされる心筋のビタミンEやグルタチオンの減少をセレニウム投与によって防ぐことができる。他の抗酸化剤と同様に、細胞内の抗酸化力を高めることにより、ドキソルビシンによる急性の心筋障害は予防できるが、CoQ10のように慢性の心筋障害は防止する作用はない。セレニウムによってドキソルビシンの抗腫瘍活性が低下することはない。

ゲニステイン(Genistein)とダイゼイン(Daidzein)

1)大豆はゲニステインやダイゼインなど多くのイソフラボンを含んでいる。大豆イソフラボンは活性酸素を消去したり、活性酸素消去酵素の活性を高めて細胞の抗酸化力を増強する。

2)抗酸化作用以外に、ゲニステインには種々の抗腫瘍活性が報告されている。

3)問題は、ゲニステインの経口での補充が、化学療法の反応性に影響するほどの組織濃度に達するかどうかである。

ボランティアを用いた人間での研究では、 42 mg のゲニステインの服用によって、血中濃度は
0.55-0.86 μM (0.15-0.23 μg/ml)であった。ゲニステインによる酵素阻害や抗腫瘍効果は5-40 μMのレベルであるから、ゲニステインによる抗ガン活性を期待するには大量の摂取が必要と考えられる。

ケルセチン(Quercetin)

ケルセチンは植物に広く含まれているフラボノイドであり、天然の強力は抗酸化剤の1つである。抗酸化作用以外に、種々の抗ガン活性ももっていて、抗ガン剤の効果を増強する作用も報告されている。

【結語】

抗酸化作用をもった食品サプリメントはガンの化学療法に対する反応性を高める安全で効果的な手段である。ビタミンEは脂質の過酸化を抑制するので、ガン細胞の増殖を維持して抗ガン剤が効きやすい状態にする効果がある。

その他の抗酸化剤も、その抗酸化作用とトポイソメラーゼやプロテイン・チロシンキナーゼなどを阻害して抗腫瘍効果を発揮する。

化学療法後の患者のQuality of life は抗酸化作用をもった食品補助剤を利用することにより改善できるかもしれない。それぞれの副作用を予防ないし軽減する薬も開発されているが、これらの薬自身にも副作用がないわけではない。一方、食品性の抗酸化物質は、副作用を引き起こさない量で抗ガン剤の副作用を予防できる。

例えば、CoQ10(ユビキノン)は、奏効率の高い抗ガン剤であるドキソルビシン(アドリアマイシン)の抗腫瘍活性を阻害することなく、それによる心筋障害を防ぐことができる。ガン化学療法の治療効果を高める物質として、食品補助剤の使用の役割を確立させる研究をもっと進める必要がある。