5:漢方薬は西洋医学で使われる生体応答調節剤(Biological Response Modifiers;BRM)とどう違う。

BRM(Biological Response Modifiers)は1980年代になって新しくつくられた言葉で、「腫瘍細胞に対する宿主(患者さん)の生物学的応答を修飾することによって、治療効果をもたらす物質または方法」と定義されています。つまり、患者さんの免疫系をはじめとして、身体全体の働きを調節することにより、治療効果を得ようとする治療です。

BRM療法は単独で行われるよりも、免疫能を低下させるような外科療法や化学療法や放射線療法などと併用することによって、患者さんの防御能力が低下するのを予防したり、より高めることを目的に行われます。

米国では、他の確立された治療法と併用することによって効果が認められれば、そのBRMは有効であると評価されていますが、わが国での臨床評価は、今までの化学療法と同じようにBRM単独での抗腫瘍効果で評価されています。抗ガン剤と同じ基準で腫瘍の縮小率で比較すると、BRMの単独療法の抗腫瘍効果は弱いと言わざるをえません。その効果も個人差があって、ガンが縮小する人もいますが、全く効かない人もいるので、普遍性を追求する西洋医学の評価法では効果がないという結論になりがちです。

また、西洋医学では作用機序が明確でないと薬として認められにくいという事情もあります。BRMは特定の免疫担当細胞にのみ作用するわけではないので、作用機序が必ずしも明確でありません。

免疫力を高めることは、ガンの再発予防に有益であることは確かなのですが、日本で使用されているBRMの使用は限定されています。その理由は、副作用がないので安易に使用されるため、医療費の高騰を招くために、制限が加えられているという事情があります。

例えば、担子菌カワラタケ(サルノコシカケ)の菌糸体より抽出精製したタンパク多糖複合体を製剤化したクレスチン(内服薬)の保険適応は、胃ガン(手術例)と結腸直腸ガン(治癒切除例)における化学療法との併用、小細胞肺ガンにおける化学療法との併用に限定されています。 シイタケより抽出されたレンチナン(注射薬)は、手術不能または再発胃がんにおけるテガフール(抗がん剤のひとつ)との併用の場合しか保険適応は認められていません。

BRMの性質上、化学療法を行っていない場合でも免疫力が低下している場合にはこれらのBRMの投与は有益と思われますし、他の種類のガンの場合にも効くはずですが、作用に個人差があって弱いということから保険での使用は認められていません。ガン患者さんが、アガリクスやメシマコブなどキノコ由来の健康食品をBRMとして利用しているのが現状です。

ガンの漢方治療の一つの目的は、患者さんの免疫力を高めることですが、単に免疫担当細胞を刺激するだけでなく、消化管の働きを良くして栄養の消化吸収を高め、血行や新陳代謝を活発にし、臓器の機能を高めるなどの相乗的な効果によって体の治癒力を高めることを目的としています。このように、免疫担当細胞だけをターゲットにするのではないという点が西洋医学のBRMと異なる点で、漢方治療が単なる免疫賦活剤ではないことの理由です。

西洋医学的なガン免疫療法の欠点

ガンの予防や治療において、免疫力を高めることが有益であることは、誰の目にも明らかです。ガンに対する免疫力(腫瘍免疫)を活性化できると、ガンの再発を予防したり、ガンを小さくすることも可能です。

免疫療法は手術、抗ガン剤、放射線療法と並んで、西洋医学でも盛んに研究されています。しかし、西洋医学のガン治療の視点は「ガン細胞を攻撃する」という点が主体になっているため、免疫療法もガン細胞を攻撃する免疫細胞のみを対象にしがちです。栄養状態や消化管機能や血液循環など、免疫力を高めるための体の状態に目を向けていない点が、西洋医学における免疫療法の欠点のように思います。

野球で例えると、西洋医学流のやり方とは、成功の確率の高い戦略をコンピューターで計算して、その方針に沿った特殊な訓練を行い、試合中のプレーは全てベンチからのサインで試合を進めていくようなものです。一部の選ばれた選手ばかり活躍してチームワークが崩れたり、それぞれの選手が潜在能力を十分発揮できない環境になっても、チームの戦力補強を優先して、働きやすさなどの環境整備は後回しになりがちです。

一方、漢方流とは、監督やコーチを含めたチーム全体の人間関係や練習環境の整備を大切にして、個々の選手の持っている能力を最大限に引き出すことを考えます。全ての選手の潜在能力とチームワークを高めるために、実戦的な練習試合を通して訓練を行います。スター選手はいなくても、各選手の歯車が噛みあうと非常な強さを見せることになります。

この2つの方針は全く対照的ですので、2つを完全に組み合わせることは困難です。しかし、スター選手を育成し、理論的な管理野球を行う場合でも、全ての選手が能力を十分発揮できるような環境を整えてやることは、チームをさらに強くする上で重要なポイントであることは間違いありません。

消化管の働きや血液循環や新陳代謝などが低下し、栄養状態や体力が悪くなっておれば、いくら特殊な免疫療法を行っても十分な効果は得られません。逆に体全体の免疫力や治癒力が十分高まれば、それだけでもガンをおさえこむことができます。スーパースターを養成する西洋医学流の方法と、そのスーパースターが最大限の力を発揮できるように体調や環境を整える漢方流の方法を組み合わせることが、免疫療法の有効性を高めるために大切だと思います。

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◯ がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。

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