8.医食同源思想による病気の予防:

私たちが日常食べている食品には3つの機能があるといわれています。すなわち、(1)一次機能;栄養の供給源としての機能(栄養機能)、(2)二次機能;色、味、香など嗜好を楽しむものとしての機能(感覚機能)、(3)三次機能;免疫系や内分泌系など諸臓器の働きを調節する機能(生体調節機能)です。従来の栄養学においては、一次機能と二次機能が中心でしたが、近年、食品の三次機能の重要性が認識されるようになりました。最近の研究により、食品には、生体防御機構(免疫系)や生体調節(内分泌系)や精神作用に作用する成分が含まれていることが証明され、疾病の予防や治療の面からの食品の研究も盛んになっています。

一方、中国では古来より医食同源といって食べ物と薬に一線を画することなく、疾病を予防し健康増進の目的で食事と薬とを同列に扱う伝統があります。これは、毎日体に取り入れる食べ物こそ体を作り、体を治すということを長い歴史の中で体験しているからであり、現代医学が最近になってやっと気がついた食品の三次機能(生体調節機能)について二千年以上前から十分認識していたからに他なりません。

中国では少なくとも二千年以上前から、経験に基づいた独自の栄養学が伝えられ、食物や料理法に関する古典書物が多数残されてきました。これら中国伝統の栄養学は、食物が体内に入ったときにどのような作用をするのか、その効能・効果について記されているのが特徴です。例えば、ネギには発汗・利尿作用があり、梨は咳止めの効果を有し、ホウレンソウは補血作用があるといったものでする。

漢方薬で使用される生薬の薬効も、このような食材の効能の知識の延長上にあります。つまり日々の食事も漢方薬による治療も、医食同源の思想のもとに同じ考えかたで成り立っているのです。健康を保つためにはなにより食事が一番大切であり、病気を治すにも、薬より食餌療法を優先すべきことを説いています。

例えば、癌予防における食生活の重要性が西洋医学において認識されだしたのはごく最近のことです。アメリカでは1970年台に国家的プロジェクトとして食生活と癌の発生の関連性を科学的な立場から解明しようという動きが始まり、その後の膨大な研究の成果がまとめられてきた。そして、西洋医学による分析的手法での研究結果の多くは、中国の医食同源の思想あるいは食養の考え方を支持するものでした。1990年から米国国立癌研究所を中心に行なわれた癌予防のための「デザイナーフーズ・プログラム」における研究から、癌予防効果が期待される野菜や果物がまとめられています。そこに挙げられているものの中には、漢方薬や食養の目的で中国医学で古くから利用してきたものが多く含まれています。また生薬成分からは癌予防物質が多く見つかっており、免疫賦活作用や抗酸化作用や抗炎症作用という観点から、漢方薬や生薬の癌予防効果に関する研究が注目されています。

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