体力に合った適度な運動のガン予防効果

運動をほとんどしないという人では、体力に合った適度な運動を行うことは、全身の組織の血行を良くして新陳代謝を高めることになり、ガン再発の予防に有益といえます。

【運動とガン予防の関係】

食生活の乱れや運動不足によって起こる肥満や新陳代謝の低下はガンを促進する要因となります。癌を発生しやすい系統のネズミでも摂取カロリーを制限し、毎日運動させると、発癌率が低下することが観察されています。

適度な運動は様々な方法で治癒系の働きを活発化します。血液の循環をよくし、体の代謝を盛んにし、気分を爽快にして、ストレスを緩和し、リラクセーションと快適な睡眠により体の治癒力を向上します。適度な運動によって、NK細胞活性の上昇など免疫機能が高められることも報告されています。

動物が繰り返しストレスを受け、そのストレスを吐き出す身体的なはけ口が与えられないと、体の状態がどんどん悪化します。しかし、動物がストレスを受けても、体の運動ができる場合には、ダメージを受ける量は最小限ですむという研究があります。運動がストレスの適当なはけ口になると免疫力と高めることにもつながります。

【どのような運動が良いか】

米国癌研究財団による「癌予防15ヵ条」では、「体を動かすことが少ないか、動かしても中程度の職種の人は、一日に1時間の速歩か 、それに匹敵する運動、さらに週に少なくとも合計1時間の活発な運動をする」ことが勧告されています。組織の血流を良くして新陳代謝を高め、ストレスを発散してリフレッシュできる程度の運動(1時間程度)を、体力に合わせて無理のない範囲でゆったりとしたペースで隔日から毎日程度に行うのが適当です。

ただし、あらたまって運動するとそれが苦になるような場合には却って逆効果になると思われます。運動自体が嫌いな人に無理強いするのはストレスになるからです。積極的に運動するより、仕事や家事で体を動かしておれば良いという研究結果もあります(文献的考察の項参照)。家にじっとしているのではなく、目標をもって体を動かすのが基本であり、仕事や家事で体を動かす機会が少ない場合にはリフレッシュを兼ねて好きなスポーツなどで体を動かすようにすると考えれば良いと思います。

一方、過度の運動はかえって健康を害することも指摘されています。運動は急激に大量の酸素を消費するため、多量の活性酸素が体内に発生し、体の酸化障害を促進することになります。肉体的および精神的なストレスを引き起こすような過度の運動は、NK細胞活性などの免疫系の働きを低下させることが知られています。オリンピック選手やプロのスポーツ選手は短命であるという説や、最も長寿な職業は僧侶であるという説もあります。大学の卒業者で体育系出身者は、文科系や理科系の出身者より平均寿命が短いという報告もあります。疲労が翌日に残るような過度の運動はガン再発予防の点からは勧められません。

一般に西洋でのスポーツは、身体機能を高めることと競技性を重視しており、健康への寄与は必ずしも高くないと思います。過度のスポーツが、体内での活性酸素の産生を増やし、またストレスを引き起こして、老化や発癌に促進的に作用するという可能性については軽視されています。

東洋医学では動きすぎはかえって気を消耗し、元気がなくなり、病気にかかりやすくなってしまうと考えられています。東洋医学における操体術(たとえば太極拳などのような体操)は一種の運動療法ですが、エアロビクスのような激しい動きはなく、ゆっくりした動きの運動であり、全身に気や血を行き渡らせ、気の流れをよくすることを主目標としており、ガン再発予防の観点からは勧められる運動です。

規則的に体の運動をすることは、ストレスの結果おこる生理的産物をうまく吐き出させるための手段として、一番適当な方法であり、体の自然治癒力や防御能を刺激する作用があります。

運動には、身体的な利点と同時に、大きな心理的変化も起こすことがあります。規則的に運動している人は、運動していない人に比べて、考え方が柔軟になりやすく、自己充足感が高く、抑うつ感情も軽減します。抑うつ感情はガンの予後に悪い影響を与えます。規則的な運動によって抑うつ状態から抜け出すことは、心身を健全な状態にもっていき、免疫力にも良い影響を与えます。つまり運動は、ガンの予後のよくない人にみられる抑うつ的な心理状態から抜け出す効果的な方法でもあるのです。

【過食はガン再発の敵】

動物を含め我々の体は飢えによる栄養不足に対して生体を守るように種々の機構が張り巡らされています。現在のように食物が豊富に手に入るようになったのはごく最近のことであり、したがって、人間も動物も食べすぎによる過剰栄養に対し全く無防備といわざるを得ません。動脈硬化、高血圧、糖尿病、痛風、肥満症など生活習慣病と言われる疾患のほとんどが栄養の過剰摂取による害であり、ガンもその例外ではありません。生活習慣病(成人病)は体の治癒力を低下させ、ガンの再発を促進します。

昔から「腹八分目に医者いらず」といわれています。カロリー制限が癌予防効果があることは、動物実験でも確認されています。過食と運動不足は肥満を引き起こします。肥満もガンのリスクです。Body Mass Index (BMI)は21〜23が理想と言われています。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

【文献的考察】

Relation between intensity of physical activity and breast cancer risk reduction.
(Friedenreich CM, Courneya KS, Bryant HE.) Med Sci Sports Exerc 2001 Sep;33(9):1538-45
乳ガンのリスクは中等度の身体活動(physical activity)によって減少する。身体活動の種類としては、仕事や家事によるものが乳ガンのリスクを減少させる効果があり、レクレーション的な身体活動は乳ガンのリスクの減少には貢献しない。

Evidence of an inhibitory effect of diet and exercise on prostate cancer cell growth.
(Tymchuk CN, Barnard RJ, Heber D, Aronson WJ.) J Urol 2001 Sep;166(3):1185-9
男性ホルモンに依存性の前立腺ガンの増殖は、低脂肪、高食物繊維、運動により抑制される。

Physical activity and cancer risk: dose-response and cancer, all sites and site-specific.(Thune I, Furberg AS.) Med Sci Sports Exerc 2001 Jun;33(6 Suppl):S530-50;
多くの研究のレビューで、適度な身体運動が多くのガンの予防に有効であることを述べている。

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