第3章:飲み物でがん再発を予防する方法:お茶と乳酸菌飲料

 2.ヨーグルトや乳酸菌飲料は腸内環境を整えて免疫力を高める

     【概要】
     【腸内細菌には善玉と悪玉がある】
     【腸内細菌の状態が抗がん力に影響する】
     【乳酸菌はがんを予防する】
     【メモ:腸内の善玉菌を育てる方法】

【概要】

 腸内には100兆個におよぶ細菌が棲みついており、ウェルシュ菌のような腐敗菌は老化やがんを促進し、一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑えるほか、様々ながん予防に有益な効果を持っています
 乳酸菌を日頃から摂取することは、腸内環境を改善して腸管免疫を活性化し、抗がん力を増強する効果があります。乳製品にはさらにラクトフェリンなどがん予防成分も含まれていますので、牛乳を乳酸菌で醗酵させて作ったヨーグルトなどの乳酸菌飲料を日常的に飲用することはがん再発予防の効果を高めることができます。

【腸内細菌には善玉と悪玉がある】

 腸内細菌とは、腸の中に棲み、様々な働きをしている菌のことです。「細菌」といっても、チフス菌とかコレラ菌のような感染症を起こす菌とはおおいに異なります。
 腸の中には約100種、100兆ほどの腸内細菌がいると言われ、それぞれがビタミンやミネラル、タンパク質などを合成しながら、腸の活動を調整し、人間の生命維持活動を行なっています。その腸内細菌の中で、人間の健康にとってよい働きをするものを
善玉菌(有益菌)、悪い働きをするものを悪玉菌(有害菌)と呼んでいます。善玉菌の代表はビフィズス菌などの乳酸菌で、反対に悪玉菌の代表と言えばウェルシュ菌やクロストリジウム菌などの腐敗菌です。腐敗菌は便秘や下痢の原因になり、タンパク質を分解して発がん物質を作ったり、老化を早めたりすると言われています。
 問題は善玉菌が減ると悪玉菌が増えてしまうことです。生後1週間の乳児の腸内は90%以上ビフィズス菌で占められていますが離乳期を過ぎると10%前後に減り老人になると1%以下に減少し、その代りに悪玉菌が増加してきます。
腸内細菌を善玉菌優位の状態に保つことは老化やがんの予防に有効といえます。

【腸内細菌の状態が抗がん力に影響する】

 腸内細菌は、腸管内の物質代謝を通して人の発がんにも重要な影響を及ぼします。食事や薬物などを摂取すると消化管において消化・吸収されます。その際、多くの物質が腸内細菌によって代謝され、その結果生じるニトロソアミン、フェノール、インドール、2次胆汁酸などは、発がんのイニシエーターやプロモーターとして働き、大腸がんなどの発生を促進します(図22)。

図22:食事成分や薬物が腸内細菌によって代謝された産物は発がんを促進したり、肝臓機能に負担となって体の治癒力を低下させる原因となる

 高脂肪食を摂取すると脂肪を消化するため胆汁の分泌量が多くなり、これが腸内細菌によって代謝されてプロモーター活性のある
二次胆汁酸となるため、大腸発がんに促進的に働くことが知られています。ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内の蛋白質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生します。欧米型の高脂肪で繊維の少ない食事は腸内細菌による発がん物質の産生を助長します。
 一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、また発がん物質の産生を抑制し、免疫賦活作用なども有しているため、大腸がんのみならず種々のがんの予防に有効であることが知られています(図23)。

 図23:ビフィズス菌などの乳酸菌は悪玉菌(腐敗菌)による発がん促進作用を阻害する

 
食物繊維ががん予防に有効であることの機序も、腸内細菌の働きと関連しています。消化されない食物繊維は、発がん物質を吸着し、また便の量を増やすことにより、腸内の発がん物質と腸粘膜との接触を減少させる効果があります。水溶性食物繊維は腸内細菌の発酵により分解されると、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの単鎖脂肪酸を産生します。これらの単鎖脂肪酸は大腸内のpHや、細菌由来の酵素の活性に影響し、また、大腸粘膜上皮細胞の増殖などにも影響して、一般的には大腸がんを抑える方向で働く可能性が指摘されています。単鎖脂肪酸は悪玉菌の増殖を抑え、乳酸菌などの善玉菌を増やす作用も指摘されています(図24)。

 
図24:食物繊維のがん予防効果の作用メカニズム

【乳酸菌はがんを予防する】

 乳酸菌というのは一般的に乳やその他に作用して乳菌を作る菌の総称で、多数の乳酸菌の種類があって、その働きも多用です。がんの抑制や予防、種々の感染に対する抵抗力の強化、などでいま注目を浴びているのがこの乳酸菌です。ビフィズス菌は人間の腸に棲みつくことのできる乳酸菌の一種です。 ヨーグルトは、乳酸菌が出す酸を利用し、牛乳の蛋白質を固まらせたものです。乳の栄養をそのまま引き継ぎ、しかも乳酸菌を豊富に含んだ食品です。乳酸菌は腸内で乳酸や酢酸を作って、悪玉菌の増殖を抑えたり、ビタミンなどの有用物質を作ったりします。またビフィズス菌自体は、腸管を通して免疫系を活性化し、生体の防御機能を強化しています(図25)。
 腸管免疫を活性化することによって全身の免疫力が高まり、がんに対する免疫力も増強します。ヨーグルトには、抗腫瘍免疫の強力な武器である
インターフェロンの体内での生成を増やすと同時に、ナチュラルキラー細胞のレベルを上げることが確認されています。またマウスを使った実験でもがん抑制効果が認められています。乳酸菌の細胞壁には発がん物質を吸着する性質もあるので、大量に乳酸菌を摂ることで、発がん物質の体内への吸収を防ぐ効果も期待できます。
 整腸剤として使用されている乳酸菌の一種のヤクルト菌(ラクトバチルスカゼインシロタ株)を使って、膀胱がんの再発防止に有効かどうかの臨床試験が行われていますが、ヤクルト菌を服用したグループでは膀胱がんの悪性度が低下する症例がコントロール群(非服用群)より多かったという結果が出ています。  
 牛乳やヨーグルトに含まれるラクトフェリンがNK細胞を活性化させ、大腸がんを抑制するという研究結果が国立がんセンターなどから報告されています。ラクトフェリンはがん細胞を自殺(アポトーシス)させる作用があるそうです。ヨーグルトには乳酸菌による免疫増強作用だけでなく、ラクトフェリンによる抗がん作用も期待できます。
 ビフィズス菌は取り続けないと年令とともに減少し、せっかく増えたビフィズス菌も、ヨーグルトを食べるのをやめれば1週間で元の状態に戻ってしまうといわれています。したがって、腸内細菌の善玉菌を増やすには、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を毎日飲み続けることが大切です。ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を一緒にとるとより効果的です。大豆などに含まれるオリゴ糖は、小腸で消化されることなくビフィズス菌がいる大腸までたどり着いてビフィズス菌を増やすといわれています。最近、オリゴ糖を使ったシロップや清涼飲料水等がたくさん発売されていますし、ビフィズス菌にオリゴ糖などを添加した健康食品も販売されています。

 
図25:ヨーグルトのがん予防効果

【メモ:腸内の善玉菌を育てる方法】

 腸内の乳酸菌を増やす方法として、生きた乳酸菌を含むヨーグルトを摂取する方法が考えられます。しかし、ヨーグルトでは、腸に棲んでいる善玉菌を十分に増やすことはできません。
ヨーグルトの乳酸菌は胃酸で殺されるからです。たとえ腸にたどりついても、腸内に元から棲んでいる細菌たちからよそ者扱いされ、便とともに外に追い出されてしまうのです、
ヨーグルトの乳酸菌は通過菌とも呼ばれ、腸内で増えることも活躍することもありません。したがって、乳酸菌の健康作用を期待するには、ヨーグルトを毎日摂取しなければなりません。
 腸内の乳酸菌を増やす方法として、赤ちゃんの時から棲んでいる自分の乳酸菌を育てて増やすというアプローチも大切で、それを目的とした健康食品も販売されています。
 その一つが、
乳酸菌生成エキスです。乳酸菌の分泌物と菌体物質には、腸内の乳酸菌を増やす効果があることが知られています、腸内にすんでいる乳酸菌の菌体内の酵素を活性化し、増殖を促します。また、悪玉菌の繁殖を抑え、悪玉菌の数を減少させる効果があります。
 その他に、
酵母オリゴ糖のサプリメントも有用です。腸の中で酵母菌は、ビフィズス菌や乳酸菌を増やすために共生しています。パン作りに使われるサッカロマイセス属のイースト菌が、悪玉菌増殖の温床になる未消化の食物や有害物質を分解したり、善玉菌の増殖を促進する物質を産生して、定住している善玉菌の増殖を助けるという効果が提唱されています。天然オリゴ糖のラフィノースは善玉菌の餌となって善玉菌の増殖を促進します。
 このようにサプリメントを利用して、腸内を善玉菌が増殖しやすい環境に整える努力も大切かもしれません。

乳酸菌生成エキスと酵母製剤を使った腸内環境の改善法についてはこちらのサイトをご参照下さい。

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