第6章:がんに立ち向かう「心」と「精神力」を養う方法

 2.がん患者会を利用してがんと闘う心の強さを養う

     【概要】
     【孤独や再発に対する不安はがん再発を促進する】
     【がん患者を支援する会が全国で組織されている】

【概要】

 がんの人は孤独になるのが一番いけないことです。家族や友人の支えがない場合などは、同じ病気の体験を持った人との交流は、精神的に立ち直るのに役立ちます。患者同士なら本音で話せ、同じ悩みを持った人の話しを聞くと勇気づけられ、心が安らぎます。がん患者会が多く組織されて活動しています。精神的な悩みだけでなく、がん治療の情報を得るためにも、そのようながん患者会は役に立ちます。

【孤独や再発に対する不安はがん再発を促進する】

 昔からがんは陰気な人に起こりやすいとか、ストレスを溜め込むような性格の人はがんになりやすいといわれています。大きな悲しみや挫折感や孤独ががんの進展を促進することもよく知られています。その理由は、このような精神的ストレスやネガティブな感情が、神経ー免疫ー内分泌系のネットワークを介して免疫力や治癒力を低下させるからです。
 がん治療後の再発に対する不安感や恐怖感は、強い精神的ストレスとなって心身の調和を乱し自然治癒力をさらに低下させる原因となり、がんの進展や再発の契機になります。このような精神的ストレスを薬だけでコントロールすることは困難といわざるを得ません。再発に対する不安感や抑うつ気分を軽くするために、患者同士の交流や種々の心理療法の利用も有用です。
 がんの再発に及ぼす心理的要因の研究も報告されています。イギリスでのがんの心理療法の中心人物グリアーらは、単純乳房切除術と放射線療法を受けた早期の乳がん患者を対象に、がんに対する受け止め方の違いによって4つのグループに分けて生存率を比較しています。その4つのグループとは、(A)はがんに打ち勝とうと闘争心をもって、がんに関する情報を集めるなど前向きの気持ちを持つ態度を示し、(B)はがんから積極的に逃避するかのように、自分ががんであることを否定するような態度を示し、(C)は冷静に受け止めたが、医者にまかせる態度を示し、(D)は絶望感に陥ってしまった、というものです。これらの4つのグループの中で、生存率は高いほうからA,B,C,Dであり、15年目の生存率は、AとBのように、闘争心あるいは積極的な拒否でもってがんに対処したグループでは45%であり、CとDのように消極的な姿勢を示したグループでは17%でした。このように
がんに真っ向から立ち向かい、希望を失わなかった人は、そうでない人に比較して生存率が高くなることは、その他の研究でも示されています。
 また進行がんに罹っても、積極的な心理療法を行なうことによりがんの生存率に差が出ることも報告されています。アメリカのスタンフォード大学の精神科教授のデービッド・スピーゲル博士らの研究では86人の進行乳がんの手術後の患者を2つのグループに分け、一つのグループは何ら心理療法を行なわず、もう一つのグループには、カウンセリングや患者同士のディスカッションなど、がんに立ち向かう態度をサポートするような心理療法を行ないました。その結果、平均生存率は、前者が18.9ヶ月であったのに対し、後者はその約2倍の36.6ヶ月であったと報告されています。これは、たとえ進行がんであっても心理的サポートにより延命効果が得られることを示しており、その機序として、
不安や抑鬱や絶望といったネガティブな感情を持たないように助け合う心理的サポートが、体の免疫力など自然治癒力を向上させるからであると考えられています。
 この研究では、最初の20ヵ月までは両グループ間に差がありませんでしたが、20ヵ月を超えると心理療法を行ったグループは著しく延命効果を示してきました。心理療法を行わなかったグループの患者は40ヵ月でほとんど死亡したのに対し、心理療法を行ったグループは4割が生存し、80ヵ月後にも約1割が生存していました。心理療法を続けると一年ぐらいで精神状態が安定してくるのに対し、そうでないグループはしだいに精神の不安、混乱が増してくると報告されています。このような精神状態の安定性の差が延命効果と関連しているようです。
 人は孤立していると病気になりやすいことはよく知られており、がん患者でも結婚している人は独身者より長生きするという報告があります。患者同士で励ましあい、また人間の絆を強くすることは、人々を孤立から救い、がんの延命にも役立つようです。ポジティブな精神状態によって NK細胞の数と活性が増進するなど、免疫力が向上することも報告されています。
 
孤独や不安は最大のストレスであり、特に自分の運命に対する不安感は強い精神的ストレスを与え、がんの進行を促進します

【がん患者を支援する会が全国で組織されている】

 アメリカでは、40年以上前から、がん患者を心理的、社会的に支援する団体が次々に作られ、企業の資金援助やボランティアの参加によって精力的に活動を行っています。日本でもがん患者を支えるための活動が組織されています。日本で行われているがん患者を支える動きは、大きく二つに分けられます。一つは病院で行われるサポートで、医師や看護婦による病後の栄養指導や、心療内科医や精神科医が行うグループ療法などです。もう一つはがん患者たちが集い、お互いの体験や知識を分かち合う患者会のような集まりです。
 がん患者会の多くは、会の代表の自宅などを事務局にして、ボランティアが活動を支えるような小規模のものでしたが、最近は特定非営利活動法人として全国レベルで活動している組織も組織されています。このようながん患者会の情報はインターネットやがん関連の書籍などで得られるようになりました。
 がんの診断法や治療法が進歩して治るがんが増えてくると、がん治療後の障害や悩みを持って生きている人の数も増える一方です。入院中は同病の仲間がたくさんいるから安心できても、退院すると家族の中にいてもがん患者は自分ひとりで不安になるという人が多いようです。病院でのがん治療は医者の立ち場での医療が中心であり、がん治療後の悩みや不安に対処しながら快適な人生を送るための処方箋は自分で見つけて行かざるを得ません。
 個人あるいはグループでの精神的サポートは、生活の質や態度に対してポジティブな影響を与えます。そして、前向きで積極的な態度は、がんの治療に対しても積極的な態度で臨むようになり、がん治療の効果を高め延命効果を引き出す可能性があります。同じ悩みを持った人の話しを聞くと勇気づけられるし、自分なりの知恵もでてきます。患者同士なら本音で話せ、それが大きな心の安らぎになります。治療の苦しみや再発の不安、死の恐怖などを分かち合えば、生きる気力を高めることができ、がんと闘う心の強さを持つこともできます。
 心の悩みだけでなく、医療面での情報を得る場としてもがん患者会のような組織は役にたちます。病気に勝つためにはその病気を知ることが大切です。自分の病気を現実として認め、自分の病気を勉強することが病気に克つ第一歩です。
治してもらうのではなくて自分で「治す」という姿勢が必要で、無用な不安を持たないためには根拠が必要です。病院では主治医が忙しいと十分な説明を受けることも困難です。検査法や治療法の情報を得る場所としても患者会は役にたちます。
 がんになったことをマイナスと捉えず、これまでの生活を見直し、何かを学びとって気持ちよく暮らして行くというのが、がんという病気を克服する上で大切です。がんと共に快適に生きて行く方法を見つける上で、がん患者会では何かのヒントが得られるはずです。それぞれの会には個性があるので、場合によっては複数の会に顔を出して、それぞれの場所で自分のニーズを満たしていくのも良いかもしれません。

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