ストレスとがん

精神的あるいは肉体的なストレスは適度であれば、生体機能を活性化して治癒力を高めることになります。ストレスにより交感神経が刺激されますが、適度な交感神経緊張状態は治癒力を高める要因になります。しかし、過度のストレスは逆に生体機能の異常をきたす原因となります(図)。

過度のストレスががんに及ぼす最大の悪影響は免疫力を低下させることにあります。人間はストレスが与えられると、交感神経が刺激され、副腎皮質からステロイドホルモンが分泌されます。副腎皮質ホルモンは抗ストレス作用があるのですが、免疫細胞のリンパ球はこのホルモンに弱く死滅していきます。またマクロファージ(異物を取り込んで消化する細胞)の働きも低下させます。

交感神経の緊張は消化管運動や分泌を抑制するので、このような状態が長く続くと、消化吸収機能の低下の原因となり、栄養障害から免疫力の低下の原因になります。胸腺・脾・骨髄・リンパ節などの免疫担当器官へも自律神経が分布しています。自律神経はこれらの免疫器官の血管を支配し血流を調節するだけでなく、一部は免疫器官の実質に終わりリンパ球に直接作用して免疫反応を調節することが明らかになってきました。例えば、脾臓のNK細胞活性は交感神経活動によりアドレナリンβ受容体を介して低下します。このようにストレスによる交感神経の異常緊張は体の免疫力を低下させてがんに対する抵抗力も減弱させてしまうわけです。逆に笑いや精神的なゆとりや安心がNK細胞活性を高めることも良く知られています。

ストレスによる交感神経緊張亢進のため胃や十二指腸の血管が収縮して血流量が一時的に減ったあと(虚血)、ストレスから解放されたとたん血流がもどり(再還流)、そこに大量の酸素が流れて活性酸素が発生します。ストレスが繰り返えされれば、虚血と再還流が繰り返されることになり、体の中に産生される活性酸素の量が増えて組織障害の原因となり、これを虚血再還流障害といいます。生体の活性酸素の産生が増えて酸化ストレスが高まると、がんの発育を促進させる要因になります。ストレスとがんとの関連は、東洋医学的にはストレスが気滞(気の巡りの停滞)やオ血(血液循環の障害)の原因となるからであり、西洋医学的にはストレスが交感神経系の異常緊張状態や副腎皮質ホルモンの過分泌を引き起こして免疫力低下と酸化ストレス増大を引き起こすからと考えられます。

メモ:ストレスや攻撃的感情は血液循環を悪くする

ストレスは交感神経を刺激します。特に人に対してイライラするとか敵意や怒りを持つ状態では、交感神経は過緊張状態になります。このような状態では血液が固まりやすくなり、血管は収縮して組織の微小循環は悪くなります。

交感神経の末端から放出されるノルアドレナリンは細動脈の収縮を引き起こし、副腎から放出されるアドレナリンには血小板を刺激して粘着・凝集を促進する作用があります。血小板から出る血小板由来増殖因子は、血管壁の平滑筋を増殖させて動脈硬化を促進します。ストレス時には血中コレステロールが増加することが知られており、血液の粘度が増します。

このような攻撃状態の時に血液が固まりやすくなるのは、生理的には合理的なことです。相手と争ってケガをしたときに、血が早く固まるほうが有利であり、体の巧妙な仕組みでもあるのです。しかし、この仕組みが、ストレスによって心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなる原因ともなっています。ストレスによる気の巡りの停滞(気滞)や精神活動や情緒の異常(肝気鬱結)がオ血の原因として重要であり、気滞やオ血の状態が発がんのリスクとなる理由も論理的に納得できます。

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