1。癌組織が成長するためには、栄養や酸素を供給する血管の増生が必要。
2。腫瘍血管の新生は、炎症細から放出されるIL-8というサイトカイン(炎症反応や免疫反応を調節する蛋白質)やプロスタグランジンE2などの伝達物質により促進される。プロスタグランジンは癌細胞の増殖を促進する作用もある。
3。プロスタグランジンE2は炎症細胞や癌細胞から作られるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)により合成され、IL-8やCOX-2の遺伝子発現は転写因子のNF-κBの活性化により起こる。
4。フリーラジカルによる酸化ストレスや、炎症反応の中心的なメディエーターである腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-alpha,
TNFα)は、転写因子のNF-κBを活性化する。
5。癌細胞内でNF-κBが活性化すると、癌細胞は死ににくくなり、抗癌剤に抵抗性になる。増殖速度も速くなる。
6。COX-2が産生するプロスタグランジンは腫瘍免疫を抑制するので、漢方薬や健康食品で免疫力を高めるときにはCOX-2の阻害を併用すると効果的。
7。強い抗がん剤でがん組織を小さくしても、効果は一時的で必ずしも延命とは結びつかない。「がんを大きくしない」「がんと共存する」という手段は、「西洋医学で方法がない」と言われた進行がんの治療に試みる価値がある。
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従って、「フリーラジカルを消去して酸化ストレスを軽減」して、「NF-κBの活性を抑制」したり、「TNF-αやCOX-2の働きを抑える」と、癌組織に行く血管の新生が抑制され、癌細胞の増殖活性が低下し、体に負担をかけずに癌との共存あるいは癌の縮小が期待できる。さらにCOX-2阻害は腫瘍免疫を有効に高めることになり、かつ癌細胞の増殖活性を弱めることができる。これに抗がん活性をもった特殊な生薬や、免疫力や治癒力を高める漢方治療を併用すると相乗効果により「がんを抑え込む」ことも可能となる。
1。COX-2阻害剤:
シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)は炎症性細胞内に存在してプロスタグランジンを合成する酵素として知られていますが、多くの癌細胞にも存在して、増殖や転移や血管新生を促進する作用が知られています。この酵素を阻害することにより、癌の増殖や転移を防ぐ効果が期待できます。
多くの消炎鎮痛剤にはシクロオキシゲナーゼ阻害作用がありますが、炎症やがんで増加するCOX-2だけでなく、消化管や腎臓や血小板などで生理的な作用をしているCOX-1も阻害するため、がんの治療には使いにくい欠点があります。しかし、COX-2の選択的阻害剤であれば、副作用が少なく抗がん作用が期待できます。
欧米で認可されているCOX-2阻害剤としてセレブレックス(Celebrex)があります。この薬は、変形性関節症や慢性関節リウマチのような炎症性疾患と、大腸がんのリスクが高い家族性大腸腺腫症に発がん予防効果を期待して使用されています。消炎鎮痛剤としてよりも、抗癌剤として注目を集めています。膵癌大腸癌のようにCOX-2産生の強い癌の場合、疼痛の除去ばかりでなく、癌を休眠状態(dormant
state)に持ち込ませる可能性があります。
(COX-2阻害剤についてはこちらを参照)
2。サリドマイド:
催眠薬のサリドマイドは、約40年前に四肢欠損の奇形児の誕生を引き起こす「サリドマイド事件」を起こしたため販売中止になっていました。しかし最近、サリドマイドには炎症やがんに伴って起こる血管新生(新たに血管が増生すること)をブロックするという「血管新生阻害作用」が発見されました。この薬理作用がサリドマイドの催奇形性の原因でもあるのですが、炎症性疾患やがんの治療における有効性が指摘されています。多発性骨髄腫に対する効果は臨床試験でもすでに証明されており、他のがんに対する効果も臨床試験が進行中です。
サリドマイドにはがんの悪液質(がん細胞が放出する物質によって体力の消耗や食欲不振などが起こる状態)の原因である腫瘍壊死因子α(TNF-α)の働きを阻害する作用があるため、進行がん患者のQOL(生活の質)の改善作用も期待されています。
(サリドマイドについてはこちらを参照)
サリドマイドとセレブレックスの併用により、大腸がんなどの進行がんにおいて、鎮痛効果と延命効果が期待されています。悪液質を改善する効果もあります。
日本では、サリドマイドもセレブレックスモまだ未承認薬なため健康保険を使っての使用はできませんし、発売もされていません。しかし、欧米から輸入して日本で使用することは可能です。
3。抗酸化剤:
抗酸化性のビタミンであるビタミンC, E, ベータカロテン、抗酸化酵素の働きを高めるセレニウム、植物成分のフラボノイド類などを摂取すると、フリーラジカルを消去して細胞の酸化ストレスを軽減する結果、NF-κBの活性化を抑制する効果が期待できます。
4。DHA(ドコサヘキサエン酸)などのω-3多価不飽和脂肪酸:
COX-2から産生されるプロスタグランジンE2の合成を阻害するので、癌細胞の増殖抑制や血管新生阻害作用が期待できます。DHAは健康食品として販売されています。
5。フィーバーフュー(feverfew, 欧米の民間薬の解熱剤):
植物に含まれるセスキテルペン(Sesquiterpene)類の中にNF-kBの活性を抑えるものが知られています。テルペンというのは芳香のある植物精油の主成分の総称で、一般に5n個の炭素原子からなる炭素骨格を持ちます。n=2,3,4,6のものをそれぞれモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、トリテルペンと呼びます。モノ、セスキテルペンには香料として使われているものが多くあります。
テルペン類は香りだけでなく、血行や胃腸の働きを良くするなどいろいろな作用をもっています。特に、セスキテルペン類には、抗炎症作用や抗がん活性などの作用によって注目されています。最近、パルテノライド(Parthenolide)というセスキテルペンが、NF-kBの作用を強力に阻害することが明らかになりました。現在ではパルテノライドはNF-kB阻害剤の試薬として研究にも使われています。このパルテノライドという物質は、欧米で関節炎や偏頭痛の治療に使われているフィーバーフュー(Tanacetum parthenium,
ナツシロギク)というハーブの主成分です。フィーバーフューはインターネットなどでアメリカのドラッグストアーから日本でも手入ります。
パルテノライドとよく似たセスキテルペンにコスツノライド(costunolide)があります。コスツノライドは木香という生薬に含まれており、発がん予防効果などが幾つも報告されている物質です。パルテノライドやコスツノライドなどのエスキテルペン類には、がん細胞のNF-kBの活性を阻害することによって、抗がん剤の効き目を高める可能性が報告されています。
6。漢方薬:
漢方薬を構成する生薬の成分のなかにNF-κBやCOX-2を阻害するものが知られています。前述のセスキテルペン類の他にも、黄連や黄柏という生薬に含まれるベルベリンアルカロイドにはCOX-2の遺伝子転写を抑える作用が報告されています。
生薬にはフラボノイドをはじめ、多くの抗酸化物質が含まれており、細胞の酸化ストレスを軽減する効果もNF-κBやCOX-2の活性を抑制することにつながります。
また、免疫力を高める生薬は、マクロファージを刺激してIL-1やNK細胞を活性するインターロイキンー12(IL-12)の産生を増やします。IL-1やIL-12には血管新生を阻害する効果が報告されています。したがって、漢方薬による免疫力増強作用も、腫瘍血管阻害の方向で働く可能性があります。
さらに、漢方治療は体の新陳代謝や血行を良くし、悪液質を改善したり、食欲や免疫力を高めて、抗がん力を増強することができます。
生薬の中には癌細胞の増殖を抑えたり殺すことができるものもあります。たとえば、白花蛇舌草、半枝蓮、夏枯草、莪朮、三稜、山豆根、蒲公英、霊芝、菱実など抗がん活性が知られているものが多くあります。このような抗がん生薬を併用すれば抗がん活性をさらに高めることができます。
以上の方法を組み合わせることにより、進行がんの場合でも、がんの進行を抑えたり、小さくすることも期待できます。
当クリニックでは、セレブレックスやサリドマイドを欧米の製薬会社より正規の手続きで入手し、抗がん漢方薬や抗酸化剤などを積極的に併用して、「がんとの共存」を目指した「体にやさしいがん治療」を行っています。