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月刊テーミス(Themis) 2003年1月号(No.123) ページ90〜92
がんにも自然治癒力がある
漢方治療が「抗がん力」を引き出す理由

滋養強壮・抗酸化作用・血液浄化・血行改善・抗腫瘍活性など生薬の効用が休眠状態を導く。

【増殖の原因や過程を取り除く】

 がんの治療に、漢方薬を取り入れる医師や医療機関が着実に増えている。漢方の生薬(薬草など原料を乾燥させ刻んだり簡単な加工をしたもの)の中には、がん細胞の増殖を抑制したり、免疫力を活性化する成分、活性酸素(フリーラジカル)の害を軽減させる成分などがある。手術や化学療法にはないこうした生体防御の効能を、がんの縮小や再発予防に生かそうという考え方だ。
 東京・両国で「漢方がん治療」専門の銀座東京クリニックを開業する福田一典院長は、がんを全身病ととらえ自然治癒力を引き出す治療に取り組んでいる。78年に外科医として出発した福田氏だが、臨床や研究を重ねるうち、「手術や抗がん剤、放射線の治療に伴う免疫力の低下と全身状態の悪化が、再発・転移をもたらす」という確信を持つようになった。
 81年以降、がんは日本人の死亡原因のトップになり、その後もがんによる死亡者は増え続けてきた。全死亡者数に占める比率は30%を超えている。毎年約50万人の新規がん患者が発生し、年間約30万人ががんで死亡する。つまり、がんと診断された人の半数以上が治らずに死亡していることになる。
 福田氏は次のように考えた。
「世界一のがん検診国の日本で、早期発見・早期治療が進んでいるにもかかわらず、がん死亡者数は減っていない。これは高齢化だけでは説明がつかない。西洋医学は日進月歩とはいうものの、それは画像診断技術などコンピュータやエレクトロニクスの進歩であって、がん治療の考え方はほとんど変わっていない。検査して、がんが見つかればそれを攻撃するだけだ」
 ではほかにどんな方法があるのか。
 福田氏はがんのメカニズムをもっと知るため、病理学、生化学、分子生物学、薬理学と研究の領域を広げていった。研究テーマに応じて母校の熊本大から久留米大、北海道大、米国バーモント大の各医学部へと移り、92年にはツムラ中央研究所部長に就き、漢方薬理の研究を始めた。さらに96年からは国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズムと漢方薬を用いた予防研究に従事する。
 その過程で行き着いた治療法が、体の治癒力を高める漢方医学と西洋医学の最新知識を統合した、独自の「漢方がん治療」である。西洋医学では、体全体に目を向けて抗がん力(がんに対する抵抗力や治癒力)を高める考え方や有効な手段はない。しかし、「がんは体内環境を整えることで予防できるし、自然治癒も可能」と福田氏は考えた。がん細胞は最も早い段階で見つかったとしても、その時点ではすでに1立方センチメートル、細胞の数にして10億個になっている。もちろん、突然この大きさになるわけではなく、増殖する原因もあればプロセスもある。だから、がんが発生する原因を取り除き、増殖を防ぐために、漢方薬を使って体の抗がん力を高めることが重要というわけだ。
 漢方の生薬は、使う薬草を採取した場所や時期、使う部位、乾燥の仕方や刻み方、品質基準などが厳格に定められている。1種類の生薬からなる漢方薬は稀で、大半が数種類から多いもので20種類以上を配合して作られる。

【駆お血薬や補気薬で体質改善】

 この漢方薬がなぜ抗がん力を高められるのか。漢方医学では、「気血が滞ると百病生じる」という考えがある。血のめぐりの異常(お血)や気の滞り(気滞)が、がんを発生しやすい体内環境をつくり出すというものだ。
 「お血」とは、全身の血液循環が悪くなり、活性酸素による障害で細胞・組織の機能が低下した状態をいう。血中のコレステロールや中性脂肪が高い状態(高脂血症)だと、血液がドロドロして流れが悪くなる。また赤血球膜の柔軟性が低下すれば、毛細血管での血液の流れが停滞するためだ。
 一方、「気滞」とは精神的抑うつ状態や不安定、胃腸など臓器の働きの失調による消化機能の低下などをいう。体力・気力が低下し食欲不振に陥る状態だが、漢方では「気は人体のすべての生理機能を動かす生命エネルギーであり、血(血液)と水(体液やリンパ液)を循環させる原動力」と考えられている。
 体力・気力や臓器機能が低下した状態を「気虚」、栄養状態の障害を「血虚」ともいい、がんの患者はこの両方を合わせた「気血両虚」に陥っている場合が多い。
 お血や気滞、気血両虚の状態では、免疫力が低下し組織が酸素不足になり、新陳代謝が低下する。これを改善するため、「駆お血薬」や「補気薬」「補血薬」を使う治療が基本となる。
 代表的な駆お血薬には、桂枝茯苓丸(構成生薬=桂皮・茯苓・桃仁・牡丹皮・芍薬)、当帰芍薬散(川きゅう・当帰・芍薬・白朮・茯苓・沢瀉)、桃核承気湯(桃仁・桂皮・大黄・甘草・芒硝)などがある。
 これらの構成生薬のうち、例えば牡丹皮(ボタンの根皮)の主成分ペオノールや桂皮(クスノキ科ニッケイ類の樹皮)のケイヒアルデヒド、川きゅう(セリ科センキュウの根茎)のテトラメチルピラジンやフェラル酸には、血小板凝集を抑制し血栓ができやすい状態を防ぐ作用が確認されている。また茯苓には組織の水分を血中に吸収して浮腫を軽減し、体内毒素を利尿作用により排出する成分がある。
 一方、「補気薬」では補中益気湯(人参・黄耆・白朮・甘草・大棗・陳皮・生姜・柴胡・升麻・当帰)、「補血薬」では十全大補湯(人参・白朮・茯苓・甘草・当帰・芍薬・地黄・川きゅう・黄耆・桂皮)が代表的だ。
 これらの構成生薬でも、例えば人参などに含まれるアデノシンには細動脈収縮に対する強い阻止作用があるし、他の生薬でも末梢血管拡張作用や、消化吸収機能の促進などの効果がある。
 ほかにも、症状の診断では「腎虚」(生命力・新陳代謝の低下)、「水滞」(水・電解質バランスや内分泌系の異常)などがある。症状と体質を診断しながら、いくつもの漢方薬を組み合せて処方することになるが、福田氏はこのように説明する。
「病気の状態や体質は10人患者がいれば10人とも異なる。その違いの緻密な見きわめを追求することは、あまり意味がない。それよりも患者が最も強く訴える自覚症状を改善し、不足している機能を補うことを考える」
 例えば、体力の低下により寝汗や口渇、脱水症状がある場合には、体液の循環を活性化し、体の潤いを増やす「滋陰薬」を加えてみる。フリーラジカルによるDNA変異を減らして、発がんを予防する目的には、フリーラジカルを消去したり、産出を抑制する作用を持つ「清熱解毒薬」などを処方する。

【肺の進行がんが小さくなった】

 実際に漢方治療でがん転移の増殖が抑えられた症例を見てみよう。
 Fさん(56歳、女性)は、乳癌の手術をして2年後、両肺に直径10ミリ〜30ミリのがん組織の散在と、肝臓に35ミリ〜60ミリ大の転移が5個見つかった。抗がん剤治療により肺と肝臓のがんは半分近くまで縮小したが、副作用が強いため漢方治療を希望した。
 抗ガン剤による体力低下が著しかったため、気と血を補う十全大補湯に血液循環をよくする駆お血薬(紅花・桃仁・牡丹皮)を加えた煎じ薬を2週間服用してもらい、体力の回復を計った。次に「抗腫瘍生薬」(抗がん生薬)として臨床効果が発表されている白花蛇舌草(アカネ科フタバムグラの根を含む全草)、半枝蓮(シソ科スクテラリア・バルバータの全草)、蒲公英(タンポポなどの根を含む全草)、虎杖根(タデ科イタドリの根茎)と駆お血薬の莪朮(ショウガ科ガジュツの根茎)、三稜(ミクリ科ミクリの根茎の外皮を削り乾燥させたもの)などを追加した。
 やがて食欲が回復したFさんは、体重は4ヶ月で3キログラム増え、体力も抗がん剤治療前の状態まで回復してきた。がんの状態は腫瘍マーカーとCT検査を6ヶ月毎に行って評価しているが、肺と肝臓のがんは全く大きくならなかった。2年後の検査では漢方治療開始時の約80%程度に縮小した。
 Fさんは手術後には肉眼で検出できる転移は見つかっていなかったため、そのときがんがあったとしても、大きさは数ミリ程度だったと思われる。それが2年間で直径が5〜10倍以上、体積では
100倍以上に増殖したことになる。それでも、漢方治療を始めてから2年以上、がんが増殖していない状態が続いている。
 最近は「がん組織を小さくすることが必ずしも延命につながらない」という反省が定着してきた。
このFさんのケースは、がんを休眠状態にして、がんとの共存をはかるために漢方が有効に働いた事例だ。

 次に、治療困難な進行がんが小さくなった症例を紹介する。
 Mさん(69歳、男性)は左肺に直径が5センチ大のガンが見つかった。リンパ節への転移が広がっており、手術はできない状態で、抗がん剤治療をすすめられた。しかし効果は低いと説明されたため、漢方治療を選択した。
 体力や食欲はあったが、腫瘍マーカーや炎症のマーカーが悪く、抗腫瘍生薬と抗炎症作用を持つ清熱解毒薬を多く処方した。また、栄養状態や体力を増強させる補気薬(人参・白朮・茯苓・甘草)と、補血薬(当帰・芍薬・川きゅう・地黄)に抗炎症作用と血液循環を改善する作用を持った牡丹皮・三稜・丹参(シソ科タンジンの根)を加えた。
 さらに、抗がん作用のある白花蛇舌草半枝蓮、しこりを軟化させる効果がある夏枯草(シソ科ウツボグサの花穂)・連翹(モクセイ科レンギョウの果実)などを併用していった。6ヶ月後のx線検査で直径が3センチまで縮小し、2年後には直径2センチ程度になっていた。

【術後30人の再発予防にも効果】

 Mさんのケースは、がん縮小の速度は遅いが、この状態が継続していけばがんの縮小や消失も可能と思われる。
 がんの漢方治療を受けている患者は、ほかにも様々な健康食品や民間医療を利用している場合が多い。そのため、漢方がどれだけ効いているかという証拠を得るには限界がある。
 だが、抗腫瘍生薬や清熱解毒薬、駆お血薬などによる、がん細胞に対する治療と、補気薬や補血薬による免疫力や体力を高める治療を組み合わせて、結果的にがんが小さくなった例が多く報告されていることも事実である。
 福田氏が開業したのは今年の5月だが、その前の4年間は岐阜大学医学部で東洋医学講座の助教授を勤め、付属病院でも漢方がん治療を実践していた。手術後すぐに再発予防のため、福田氏から漢方処方と食生活指導を受けている患者が30人ほどいる。年令は30〜40代で乳がん、大腸がん、胃がんの手術を受けた患者だ。
 漢方の効果を評価するには、まだ期間が短いが、この中にはいまのところ再発した患者はいない。
 クリニック開業後の新規患者は約100人程度で、初診に2時間余りかけている。1日3〜4人の診療が限度だ。完全予約性の自由診療で、初診料1万円、再発予防の治療は月2〜3万円、進行がんの治療でも月3〜4万円だ。
 処方する漢方薬はすべて刻み生薬で、顆粒状に加工したエキスは使わない。エキスの場合、製造過程で水分を飛ばすため、生薬の精油成分(エッセンシャルオイル)も減少してしまう。精油成分の中に生薬本来の成分が多く含まれており、エキスの状態では効果が3分の1から半分以下になる。
 便秘や冷え症の改善などは、エキスでも十分に効果があるが、手強いがんの治療では「後悔しないよう最も効果的な治療を選ぶ」という。
  漢方治療に対する患者の認識とニーズは高まっているが、医師の側の意識はまだ十分とはいい難い。「臨床をやっていると、がん細胞を攻撃する戦略より、体力の増強に目を向けることが大事だとわかってくる。医師も自分ががんになれば、このことに気がつくが」と、福田氏は苦笑する。
 あるベテラン外科医はこういった。
 「完全にがんを切除して手術が成功した患者が、半年で亡くなったことがあった。一方で、開腹したものの、がん性腹膜炎を併発していて手術できずに閉じた患者のほうは延命した。自分がやってきたことは何だったのか」

【「侵襲的治療」の悪影響を補う】

 手術や抗がん剤、放射線などがんを攻撃する「侵襲的治療」には、体力や免疫力を低下させ、がん細胞の悪性度を増大させるデメリットがある。漢方はこうした西洋医学の治療による副作用の緩和や再発予防に有効性が高いが、さらに延命や腫瘍の消失も期待できることが少しずつわかってきた。
 同時に、西洋医学では打つ手がなくなった患者が可能性を見いだせる治療でもある。現在、福田氏の許を訪れる患者の大半が、進行状態にあるか末期の患者だ。しかも本人が入院していたり、病状が重いため来られず、家族が代わって診察を受けるケースが多い。
 「端的にいえば、がんセンターで匙を投げられた患者を何人救うことができたかと結果で、(漢方治療の)有効性を評価してもらうしかない。ただ、少なくとも特効薬を探し論文を書くための研究や、どの薬の有効率が何パーセントという次元でやっている限り、がんには太刀打ちできない。いいものをどんどん試していくしかない」(福田氏)
 漢方薬のみならず健康食品でも、有効性を証明する研究結果は十分に集まっている。漢方講座を設ける大学も増えている。しかし、大学病院や大規模病院では、抗がん剤治療をやる際に漢方薬や健康食品の服用はやめるように指示される場合が多い。
 「医師が特定の薬効を見たいために、有効性が明らかな代替療法を禁止するのは、砂漠に行くのに水筒を持っていくなというようなもの。どの薬にどの程度の効果があったという次元で見ている限り、がんは治せない」
 福田氏はこう断言する。患者や少数の医師の挑戦によって、着実にがん治療は変わりつつある。

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